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ひらめきの月曜日
 
無理やり押し寿司


1,100円と、迷わず買える値段。

秋田で生まれ育ったせいか、押し寿司は買って食べるもんだと思って育った。家で作るのは手巻き寿司・ちらし寿司くらいのもので、押し寿司は握り同様「お金を払って買うもの」という認識だった。のだが。

「関西では寿司=押し寿司」という話を伝え聞いた。そういえば、サバ寿司や柿の葉ずしの本場は関西だ。やっぱり家で作ったりするんだろうか。いいなぁ…と思っていたある日、東急ハンズで「押し型」なるものを発見。

「これか! これで作るのか!」と興奮し、気がつけば一番小さな型を購入していた。

しかし、どんなに押し寿司が好きでも刺身用の魚をさばいて酢で締めたりする作業は面倒だ。もっと手軽に押し寿司を楽しめる方法はないだろうか。

高瀬 克子



ルール無用

押し寿司に明確な定義があるのかどうか、いまいち分からない。いや、仮にあったところでおとなしく従うつもりもないのだが、回転寿司の出現によって寿司ネタがバラエティーに富みすぎている昨今、それを押し寿司にも流用しない手はないだろう。

こんなことを書くと「お前は一体どんなものを押すつもりなんだ?」と不安を抱く方もいらっしゃるだろうが、どうか安心してほしい。

今回は、かなりオーソドックスです。だって、用意したのがコレですもの。


お馴染みの半額シールと共に。

確かにオーソドックスではある。寿司といえば刺身。当たり前の話だ。当たり前すぎて不安になるくらいだが、これらを酢で締めず、買ってきた型で酢飯と一緒にギューギュー押したとしたらどうだろう。

俗に「握り寿司は口に入れたとき酢飯がほどけるような握り方が良く、それを体得するのが難しい」と言われるが、今回必要なのはギューギュー押せる腕力のみだ。

今日は、とことんシンプルにいこうじゃないか。


ビニールを外して構造を理解したら、
まずは、そこに酢飯を敷き詰めます。

ついお風呂を連想してしまったほど、檜で作られた木の型からはプーンといい香りがした。ああ、この匂いが少しでも押し寿司に移ったなら、それは間違いなくおいしくなるに違いない。

しかし、それは酢で締めない普通の刺身の場合でも有効なんだろうか。


一抹の不安と共に、乗せます。

しかし、なんでこうも不安な気持ちになるのだろう。

「おいしくなるかどうか」という問題ではない。「人としてこんなことをしていいのか」という話なのだ。なんたって、相手はお刺身なのだ。

うやうやしく丁重に扱って当然の刺身を、この上さらに力任せに押そうというのだ。いいのか。そんなことしていいのか。


でも、押して悪いという決まりはないはずだ。
しかも今回は2段重ねときた。
思った以上に酢飯を使う。その量にビビリつつ、
さらにお刺身をドーンと並べた。

不安はさらに募る。ほんのりと酢飯が温かいのだ。

通常、押し寿司は保存が利くものだが、今回に限っては「作ったらすぐ食べる」という握りのスタイルを取らざるを得ない。

「なんでこんなことを思い付いたのか」「もっと違う素材を選べばよかったのに」と自分を責める気持ちが膨れ上がったが、今はつべこべ言ってる時間さえ惜しい。

作業を急ごう。刺身が傷む。


フタを被せたら、
あとは思う存分押すまでよ。南無三!
押しすぎたのか、酢飯が隙間からはみ出した。
酢飯じゃない物もムギューっと出た。ホタテだろうか。

押しながら「サバ寿司に使われる鯖だって、好きで押されてるわけじゃないんだ。同じサーモンだって、押されたり押されなかったり、立場はいろいろじゃないか」という考えが浮かんでは消えた。

そうだ。値段の高さ故に押したらイカンという法はない。刺身に貴賤なしだ。鯖だって今じゃ立派な高級魚じゃないか。

なんとか良心の呵責を打ち消すことは出来たが、とっとと食べてしまわないと腹を壊す。やっぱり先を急ごう。


外枠をそーっと取り外す。緊張。
安堵して、とりあえず皿に乗せてみた。

指の色が白くなるほど何度も強くギューギューと押したのだから、酢飯が崩れるとか刺身が剥がれるとか、よもやそんなことは起こらないだろうと思いつつも、木枠を外す作業にはかなりの緊張を要した。

そしてついに、フタを外すところまで来ましたよ。


ちゃんと押し寿司になってるんだろうか。

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