ある朝、目覚めたら、女性二人がなにごとかこそこそ話していた。私は寝ぼけている。二度寝するか。いや足元に猫がいる。猫!?そうだ。昨日は友人宅へ泊まったんだった。
「痒い……」 「ハンガーを曲げる……」 「ハリガネ……」 「掻く……」 「孫の手……」
思わず身構えた。昔話なら私は食われるところだ。
えーとそうではなくて、「ギプスの中が痒いので、なんとかしたい」という話のようでした。
じゃあなんとかしましょうよっ!私は飛び起きました。
(text by 土屋 遊)
ギプスの主は女性ではない。私の友人、神田ぱんのご主人マクラさん。鎖骨を骨折して手術したばかりだ。
念のため書いておくが、上の写真は、3人の娘さんに見せて心配してもらおうと企むマクラさん自身の演出。涙ぐましいほどの父の愛だ。
波に注意(くれぐれも)
波にやられたというのだ。最初はわけがわからなかった。 一人で「波を正面からじーと見る」という山下清的遊びをしてて、波に巻かれたという。いやますますわからない。
わからないがなんだか恐ろしい強大な力だということは想像できる。海が一丸となってマクラさんの鎖骨めがけて戦いを挑んできたのだろう。
全世界のかゆいギプス人のために
まえがきの朝に戻る。 母と娘がこそこそと話していたのは、「かゆいところに手が届く道具」のことだった。
手術後のマクラさんは、会うたびにギプスの中のかゆみを訴えてくると言う。宿泊した翌朝、まだ私が寝ている間に神田ぱんさんはすでにコーヒーと新聞を届けに病院へ行っていたのだが、マクラさんのかゆみは限界に達していたらしい。
そこで、帰宅後の神田ぱんさんが次女の花青ちゃんと色々な策を練っていたのだった。
ネットで調べてみると、ギプス装着時にはやはりこの悩みは避けては通れないらしい。いたるところで「かゆいかゆい」と騒いでいる。
掻きたい。でも掻けない。
一番の人気は"針金ハンガー"、つぎに目についたのはアルミのメジャー。そしてエンピツ……。これらを利用して患部を掻こうとしているようだ。
ケガ人が、さらにケガをするかもしれない自家製掻きグッズの数々……危険を冒してでも脱したいほどのかゆみなんだろうか。
グッズ作りはやはり道具箱から……
神田ぱんさん、次女の花青(カオ)と彼氏のあっくん、そして私、4人の知恵をしぼって色々と意見を出しあった。
結局のところ、そのほとんどが神田家の道具箱の中から発掘されることとなる。
写真を見直すと、よからぬことを企む窃盗集団のようにみえる。