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フェティッシュの火曜日
 
砂の彫刻がすごいことになっていた

200トンとつっかい棒

だいたい、「なぜ砂があんなふうに固まって、彫刻できるようになっているんだ?」といぶかしむ方も多いだろう。私も以前、当サイトの記事で、見よう見まねでそれらしいものを作ろうとして全然ダメだったという経験を持つ(リンクするのも恥ずかしい)。

そ・こ・で!普段めったに見られない、砂像制作の1から10までをお届けしよう。

まずは大量の砂(この作品「ポセイドン」の場合重さは200トン!)を、脇からこのように圧力をかけ、海水を注ぐ。木枠は60cmの高さ×9段なので、作品の大きさは5.4mにもなる。


大量のつっかい棒と、木枠を締めるチェーンのふんばりがわかる。

数日このまま置いたあと、上段の木枠から外し、コテなど駆使して造形していく。表面が乾いていたら崩れないように散水器で湿らせ、形を定めたところで定着剤を吹きかけ固定させる。定着剤は専用のものが市販されているが、主成分は牛乳のようなものだそうだ。

つまり、この大量の砂は「もともと中心まで固いもの」ではなく、「水を媒介として押し固めただけのもの」に過ぎない。定着剤を吹きかけ乾かした時点で固まりはするが、それも表面からせいぜい1cm程度が固まるに過ぎない。

あの200トンの砂がよくそれで崩れ落ちないものだ・・・と疑問に思うが、表面全体がかなり固くなるので、それで保っているのだ。


最上段、完成。

 

よく考えると驚異的な作業

さて、上の写真を見てもおわかりだろう。木枠を1段ずつ外して彫っていく。ということは。

あらかじめ砂山の全体が見えているわけでない。なのに、最終的に全体像がつながって彫れている。
作者の頭の中に、すでに全体像ができあがっていて、それが徐々に姿を現していくのだ。

この辺、彫刻をやっている方には何の不思議もないのかもしれないが、「3次元の対象」が彼の手で砂の中から彫り出されていく様は、いつ見ても神秘的に思える。


上にのぼるのを想像するだけでもくらくらするのに、木枠を外しに。

そして、次の段を外すということは、もうそこに手が届かないことを意味する。よって、手の届く範囲の像が完全なものになってから木枠を外さねばならない。

そしてそして、例えばこの頭部。

作りつつも、たまに地面まで降りて、離れた位置から確認しながら彫っていかねばならないというから、聞いただけで汗が出る。
確認、というのは、こういう大きな作品の上部は、鑑賞する人の視点に立ち、顔など長細く作るのだそうだ。そうしないと、下から見上げたときに寸詰まりな印象になってしまう。


そう言われれば長めの顔。

関係ないが、頭の上の細い棒は鳥除けのために挿しておくもの。

まさに7つ道具。計量スプーンもあったりする。
ストラップにつけて常備するストローは、砂を吹き飛ばすため。

定着剤で固まった表面を剥がしたところ。レバーフライみたい。
たまに小枝や何かの幼虫がはさまっている。

 

砂像ゆえの苦悩

言うまでもなく、他の素材(木、石、金属など)と違い、砂像はさくさくと造形しやすい分、「ややもすると崩れる」という宿命がある。

例えば下写真の馬の首。実際の馬よりかなり太くできているが、これをもし現実に即して細く彫っていくとすると、頭の部分を支えきれずに崩れてしまうことになる。


首をかしげているようでかわいいが。

また、これは素材が木の場合も石の場合も同じだが、彫刻は「引き算」だ。一度削った部分を足すことはできない。一回勝負だ。

そんな精緻な制作に、設計図はないのか訪ねると、保坂さんは2枚の資料を見せてくれた。下左は手書きのラフ、右は各部分の参考資料。これだけ!

「最初は模型をあらかじめ作っていたけど、思い通りにはいかないものなので、今は何段目に何が位置するのかだけをラフにしておいて・・・頭の中に完成図があるんですよ」

やっぱり、彫刻の人はすごい頭を持っていると思う。自分にはできる気がまったくしない。


これ渡されて「彫って」といわれたら、私なら失踪する。
彼はあんまりこれ見てなかったと思う。チラ見程度。

 

 
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