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はっけんの水曜日
 
ボヘミアの川よ、ヴルタヴァよ♪

(text by 大塚 幸代




あらすじ
東京での日常に、煮詰まっていたライター大塚、不思議なご縁に導かれ、ヨーロッパのど真ん中、チェコへの旅へ。同行者はチェコ語ペラペラ梶原嬢(元スマップの森くん似)と、女編集者・ニシ嬢(井川遥似)。ビールがミネラルウォーターより安いこの地で、ばりばり飲酒運転のタクシードライバーの送迎で、女3人プラハ入り。で、どうした!?

早朝、いっかい目が覚めた。
いてててて。あててててて。う、うそお……。
身体を少しひねると、腰の痛みに気づいた。いわゆるエコノミー症候群が出てしまったらしい。
やばいな、と思いながら手元を見ると、指にガイドブックが刺さってた。本を持ったまま、眠ってしまったようだ。ヤル気に満ち満ちている旅行者のようだが、そういう理由でもない。私はいつも眠る前に本を読む習慣があり、最近になって、指に刺さったまま寝てしまうようになってしまった。脳のシステム終了寸前に、本を枕元に置く、という作業が出来ないんである。毎回、それを発見して「老化かなー」と落ち込む。
……とりあえず2度寝した。
もう一度起きたときも、まだ二人は眠っていた。カーテンをちょっと開けて、外を見る。「ああ、外国にいるんだなあ」と思った。
洗ってひっかけて干しておいたパンツを指で触ると、乾いていた。さすが、乾燥しているのが、取り柄の欧州。


私たちの泊まったホテル周辺は、中心部まで20分もかからない場所なのに、こんなに郊外っぽい。プラハの市街はとても小さいのです。

朝食は部屋に運ばれて来る頃には、皆、ポヤーとした顔で起きていた。カゴにはいった黒パンと白いパン、ハムとチーズ、コーヒー、ヨーグルト、ジャム、バター、たっぷりのポット入りコーヒー。
白いパンは、三つ編みの、不思議な形をしていた。パサつき気味で、素朴な味だった。

「これ、日本では『亀型パン』って訳されているんですよ」
そういえば、よく見るとカメの甲羅に似ている。
「編むの、面倒くさそうだね。こういうふうに焼くと、何か効果あるの?」
「さあ…。共産主義時代って、ヒマだったんですよ、全般的に。だから、編んじゃった、っていうのが真相なのかなあと思うんですけどね」
……ほんとか?

 

「まず、お城いっときましょう!」
「いこういこう!」
世界一美しい街プラハの、中心にあるのは、プラハ城だ。街全体が、リアルディズニーランドというわけだ。

痛い腰をだましだまし、トラムに乗って出かけることにする。

プラハの街には、地下鉄とトラムが縦横に走っている。
チケットはホテルや駅の売店、券売機で買える。
トラムのなかや、駅入り口で、自分で機械にチケットを突っ込んで「ビビビビッ」と、時間を印刷してもらう。
係員もいない(!)「全部、自分でやってね」方式だ。ヤル気を出せば、タダ乗りは簡単らしい。
でも警官が時々「チケット見せてください」とやって来る。なかった場合は罰金だそうだ。私たちも旅行中、一度だけチェックされた。


かわいらしいトラム。

さあ、街が見えてきた。


まちなみは、こんなかんじ。萌え萌えの、石畳!!

萌え萌えの、赤い屋根群!!

「……なにかのCMの、撮影地だよなあ、これ」
「実際、撮影地になってますからね」
「そりゃまあ、そうだよねえ」
現実感を感じない風景だ。
「うわー、ほんとに、どこを切っても絵になるねえ、特集作りのグラビア写真とかに、困らなそうだね〜」
ニシさん、さすがに出版関係者らしいことを言う

でも私は、夢の中にいるみたい! キャー! というテンションに、どうしてもならなかった。
美しいけど、埃っぽい。
でもそれは、いやな種類の埃っぽさじゃない。人が普通に住んでるからこそ、巻き上がる、普通の埃。
人と街の匂いと、ある種の雰囲気。

古い古い建物に、グラフィティ(落書き)が、してあるのをたくさん見かけた。
もし日本の古都、京都の町屋とかで、そんなことしたら……グーでボコボコ殴られるだけでは済まないだろう。
「石造りの建築って木造建築と違って丈夫だし、何か塗られても、塗り直せばいいじゃん?」という余裕があるんだろうか?
しかし、古都なのに、サバサバしすぎてないか?
サバサバしてる街は、好きだけれども。 

トラムから電車に乗る。人々の服装も気になった。
パリやロンドンの人たちと違って、機能的なファッションを好んでいたような気がした。ダサいというよりは、「着れればいいじゃないか」という雰囲気が濃厚のような……。
都市部だったから、特にそういう空気だったのかもしれない。


シェルターとする目的も兼ねてたそうで、さすがに明るくはない地下鉄。でも危険な雰囲気はほとんどなし。

非常口のピクトグラムが気になった。日本と比べて…カクカクしてない??

ポスターもいちいち、ひねってある。


地下鉄を出てテクテク歩くと、お城が見えて来た。

お城の衛兵は、イケメンぞろいだ。
門番は微動だにせず表情も変えず、彫像のように、観光客の記念写真の被写体にされている。なかなか辛そうな仕事だ。

「彼らは、チェコ軍から、ルックス重視で選ばれるんですよ」
「若くてスラッとして、カッコイイもんね。やっぱ退役後、『俺、むかし、城の衛兵やってたんだよね〜』とか言うと、モテたりするのかしら」
「どうなんでしょう」
このイケメン衛兵、もう完全に『様式美』のための存在なので、警備はグリーンベレーが、また別に立っている。そっちのほうは屈強な男性だった。


教会を見ると「やっぱキリスト教ってキャッチー」と感じてしまう。乙女はやっぱり、多少なりとも、この美しさには魅かれると思う。私は無宗教だけど。

こちらはお城そば、文豪カフカさん家(左、青い家)。カフカさんちは天井低くて、とっても狭く、6畳くらいしかなかった。ここは「黄金小道」という通りになっていて、カフカさん家も含め、人形屋とか、スキンケア商品屋とか、オモチャ屋とか、全部オミヤゲ屋さんになっている……くせに、入場料はとる…。

ところでこの石畳、ところどころ剥がれていた。
10センチ角くらいの石を埋めているだけなので、その気になれば剥がせる。


修理中、それにしても、浅い。またすぐはがれそうな気も…。

「フーリガンとかが、この石、投げるんですよ」
うえー。当たると、ものすごい痛そうだ。
というか、打ち所悪かったら、死ぬと思う…。
「ところで、チェコでの、フーリガンと一般のサッカーファンの、違いって何?」と、梶原さんに訊く。
「そうですね、会場で決まった掛け声をかけたり、歌ったり、決まったフリツケで踊ったり…」
「それは、日本のアイドルファン……に、近くない?」
「あ、そうかも。“ヲタ芸”に近いかも」
……ほんとか?

景色をみて、素直に「すてき! すてき!」と連発するニシさんに、梶原さんはそのつど、「でしょー?」とこたえていた。
私は「どういう街なんだろ、これ?」という「異文化混乱モード」に入りっぱなしで、かつ、腰の痛みも増していったので、素直に「すてき!」が、出てこなかった。

でも梶原さんの「でしょー?」には、少し驚いた。
彼女は、チェコ人以上に、チェコが好きで、チェコが自分の一部になってしまっているようだった。
(……実は私にも似た経験がある。かつて好きでたまらないバンドがあって、好きすぎてその一部になってしまい、「俺もあのバンドのファンなんだよー」と人に言われたときに、「ありがとうございます!」とこたえていたのだ…。)

友人が、想像以上におかしい、ということに気が付いたとき、その人に対する認識が変わる。
私は「梶原さん、天才だったのね」と、惚れ直すことにした。

歩きながら、路上で売ってるホットワインを飲む。


赤ワインに、何かスパイスがはいってる。ものすごく美味ではないけど、寒いときに飲むとしみる。プラハ城付近のカフェって、こんなふうにガラスにメニューを書きまくってる店が多かった。ホワイトボード代わり?

ホットワインを飲みながら、町中を歩く。
「そういえば、ここに一部で話題になってる、『現代アートの噴水』があるんですよ」
「なにそれ?」
それは、フランツカフカミュージアムの、小さな庭にあった。
向かい合った男性。噴水の池の形は、チェコの国土の形をしていた。


*あくまで現代アートの彫像としてご覧ください

……。
回転するか、そこで。
その後も、珍妙な彫刻やオブジェを、何度か街角で見かけた。


こんなのとかが、気軽にそこらへんに、ある。

さすがに、チェコ映像作家の巨匠、ヤン・シュヴァンクマイエルを生んだ土地。
こういうものに対する「基礎体力」が高すぎる。

いつも満員電車みたいに混雑していて、「落ちるんちゃうんか」と言われているという、カレル橋まで歩く。でも風が強くて、寒くて寒くて仕方なかったせいか、かなり空いていた。
橋の上は、風はびうびう。脳ミソがシャーベットになりそうな勢い。


橋からの眺め。遊覧船も、寒すぎて空いていた。

下に流れる河は、ヴルタヴァ川、私たちがよく知る名前で言えば「モルダウ」だ(モルダウはドイツ語での名前)。
合唱で歌った歌詞が、頭の中に流れる。「ボヘミアの川よ、モルダウよー」。私はアルトだったので、実は主旋律が分からない。主旋律が歌える人がいれば、ハモれると思う。
「いや、あれに歌詞付けてるの、日本人だけですから! 普通はオーケストラなんです」
ぷりぷりと、梶原さんが言う。
ふーん、そうなの…? 歌わないのか。
「そういえば斉藤和義が、モルダウをカヴァーしてたよ」とニシさん。
「ええ、ほんとに? ファンだったのに! 私もう斉藤和義聴かない!」
え、ええー。
「いや、きっと斉藤さんは、そういった事情を知らず、日本の合唱曲に変換された後の、ノスタルジーな、日本の教室の匂い、みたいなやつをイメ−ジして、カヴァーを…」
なぜか弁護する私。
「もう聴かないー!」
チェコの天才、きびしい。
欄干の上には、たくさんの彫像が等間隔に立っている。でもやはり寒くて、ゆっくり眺める気力が出ない。
「そういえば、どっかにフランシスコ・ザビエルがいるんですよ」
「寒いからいいや、探すの面倒だし」
彫像が多すぎて、ありがたみが分からない。
日本の、カラオケボックスなんかにある偽物の彫像くらい、気軽にスルーして歩いてしまった。バチあたりかもしれないが。
(そもそも写真を1枚も撮っていないところに、ヤル気のなさが伺える)。


そういえば「ブラックマドンナ」というキュビズム建築のたてものの中のカフェで、お茶もした。かっこいいんだけど、もう、ただそこに自然にあって普通に使われてる建物なので、やはり、有り難みがあまり分からず、麻痺。建築マニアの皆さんよ、私みたいな猫に小判状態でごめん。

夕食は、「ばりばり観光客向けの、有名なビール店」の「ウ・フレクー」に行った。
座ると、まず食前酒(ヨモギ系のお酒、苦い)が出てくる。
そのあと、何も言わずとも、その店オリジナルのビールが、どん! と置かれる。

飲み干すと、「もう一杯いかが?」と、ビールを持ってこられる。「もういいです」というまで、ビールが続く。
名付けて「わんこビール」状態。
「チェコ語が聴こえないですよ、隣はドイツ人、後ろはイタリア人っぽいですね」と梶原さん。
「ほんとに観光店なんだねえ」
「イタリア人て、チェコ好きでよく来るんですよ。チョコ人もイタリアに行くし」
「へえー、知らなかった。なんでだろ?」
「お互いにないところを、求め合ってるんですかねえ?」
「ところであの、アコーディオンの人、誰かに似てません?」

店には、専属のミュージシャンがいた。
イタリア人の前では「オーソレミーヨ」、私たちの前では「上を向いて歩こう」を演奏していた。
道ばたで私たちは、「中国人か?」「韓国人か?」と、何度か声をかけられていたのだが…。ぱっと見、どうやって日本人だと分かったんだろう。観光店ならではの、長年の勘だろうか?
「アコーディオンの人……暗くて悲しい瞳してるよねえ。あ、『僕の生きる道』のときの、草なぎ剛っぽくない?」
「あー、ちょっと似てるかも」


つまみに頼んだ、チェコ料理「グラーシュ」。無理矢理例えるなら、日本のビーフカレーに似ています。

ぶんちゃー、ぶんちゃー。草なぎさんの演奏で、ビールはすすむ。
飲みながら、「これ、旅行じゃなくて、長い飲み会なんじゃないのか?」ということに、気がついた。
あと、1日、腰をかばって歩いていたら、今度は右ひざに激痛が走っていることに気がついた。

ビールは美味しゅうございました。しかし、私どうなっちゃうんだろう。
旅は続く。

取材協力:チェコ総合情報誌 「CUKR[ツックル]」

完売してしまった1&2号を再構成、加筆した『別冊CUKR[ツックル]チェコってやっぱりアニメーション?』が発売中です。大塚も寄稿してます、宜しく


 
 
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