山梨県塩山駅からタクシーで登山口へ向かう
新宿から特急かいじに乗って1時間半、山梨県の塩山駅に降り立った。
ここからタクシーに乗って「作場平口」という登山口に向かう。登山口から2時間程度のハイキングを経て、多摩川の最初の一滴が落ちる場所「水干(みずひ)」に出会える。
午前10時、塩山駅の周辺には観光客らしき人たちの姿は見当たらず、タクシー数台が客待ちをしていた。
1番前で待っていたタクシーに乗り込み行き先を告げる。
「作場平口だったら、ここから1時間だね」
運転手さんが僕に告げる。
1時間?事前に調べた情報にそんな事は載っていなかった。
「1時間もかかるんですか?」
「そうだね、で、作場平口から山に入るの?」
「はい。多摩川の源泉って所までハイキングしようかと」
「あんた、ハイキングって言うけど、相当な山道だよ」
「相当な山道?」
「そう、本格的な山道。装備は?」
装備?ハイキングで暑くなりそうだったので、この日の僕は半ズボン。Tシャツの上にGジャンを羽織り、デイバックの中にはパソコンとデジカメ2台。極めて軽装だ。
「食料とか、何にもないの?」
「ええ……」
「山の中の地図も?」
「看板とかたよりにして行こうかと……」
「そんなもん、アテになるもんか!それに平日で人もいないから誰にも聞けないよ」
運転手さんは観光用のパンフレットを取り出し、そこの地図を開いて渡してくれた。
「これだって、ないよりはマシだからね。これを見て行くといいよ」
作場平口から水干まで、山小屋等のチェックポイントがいくつか表記された簡単な地図だった。それぞれのチェックポイントまでの所要時間も書かれている。
「これからコンビニ連れて行ってあげるから、そこで食料買って」
午後から雨が降る予定だから雨ガッパも買った方がいい、それから飲み物も。とにかく、何も持たないで山に入るなんて無謀過ぎる。
コンビニに入り、おにぎりとお茶、スポーツドリンクをカゴに入れレジに立つと、外で待っていた運転手さんが慌てて入って来て
「チョコレートとか、飴とか、買っておくといいよ!」
とアドバイス。
「は、はいっ!」
車に戻ると運転手さんが杖と懐中電灯を持っていた。
「これ、貸してあげるから」
軽いハイキングのつもりで来たんですけど……。
僕の考えは甘かったらしい。
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