作品のおさらい
まずは昨年発表した小説「アリスの花」の全文を掲載させていただこう。
〜北官能小説「アリスの花」〜
アリスはシティホテルの一室にいた。さっき出会ったばかりの男と2人。男は既にシャワーを浴びてベッドの上に腰掛けている。腰にタオルを巻いただけの格好で、男はアリスにシャワーを浴びるよう視線だけで促した。アリスは、その視線が自分の肢体に纏わりつくのを感じ頬を紅潮させた。男はそんなアリスを更に辱めるように、下顎を突き上げ「早く行け」と命令した。脱衣所でブラウスのボタンをゆっくりとはずすと、家を出る前に体にふったパフュームの香りが薄らと香った。普段は、香りを身に纏うことなどない。10年連れ添った夫は、アリスに色気を求めなくなっていた。このまま花を枯らしたくない。下着をはずすと、全裸姿の自分が鏡に映った。躯の線はまだ崩れていない。これから、名前も知らない男に躯を見られるのだ。夫への罪悪感が過り、アリスは鏡の肢体中の自分に向かって小さく囁いた。
「んなもん、おっちゃっとけばいがっぺ」
両手で軽く頬を叩き、シャワールームの中に入った。そう、新しい自分に出会うために。(おわり)
掲載スペースの都合上、とても短い作品に仕上がっている。この長さでも受賞出来るのか? 一抹の不安は残るが、芥川賞は短編、中編を対象とするらしい。多分大丈夫だろう。むしろ、IT化が進んでみんなが時間に追われている昨今、これくらいの長さの方が時代に合っていると思うのだ。
また「北官能小説」という新しいジャンルを開拓したという自負もある。オチに北関東弁が出てくるので北官能小説である。純文学に「オチ」が必要なのかどうかは知らないが、その辺は「斬新」ということで解釈されることを望む。 |