無駄なことをする。今回の企画はタイトルどおりである。それ以上でも以下でもない。
ふだんのデイリーポータルZの記事からして、ほぼ無駄なことのオンパレードのような気もするが、まあいい。
「いかに無駄をなくし、コストパフォーマンスを上げ・・・」「企業のROIを最大化し・・・」などという日常からしばしおさらばだ。家から会社まで、いかに無駄の多い道程をたどれるか。会社に行くのがどうしてもおっくうなある日、という設定で、スーツを着てのんきにぶらぶら通勤してみた。
(乙幡 啓子)
トラップその1:家から駅に向かう
午前8時半、家を出る。髪もスーツも整え、出勤だ。
「ああ、でもなんだな。朝一の会議の準備、どうもいまいちリサーチが足らないせいで、中途半端な出来だ。ああ、会社行きたくないな。」
と、玄関で靴を履こうとかがんでいると、あるものが目に入る。
・・・こんなことをやっている場合ではないのだった。早く駅へ急がねば。
いつも通る踏切で。
非常ボタンのあの形状、いかにも「押してくれぇ」と言いたげなデザインだ。さぞ押したときの感触も心地よかろうと思わせる何かがあるが、「非常ボタン」としてそのありようは まずいのではないだろうか。
と思いつつ、踏み切りで待ちながらふと脇道に目をやると。
ホウキを見ると、私の中の子供が目を覚ます、気がする(特に「自在ボウキ」とか)。「私の中に、オレが戻ってくる」(車のCMより)ってやつだ。
朝こんな時間に、無償で道を掃いていると、すごくいいことをしているような気になるが、通勤中の社会人としては明らかに無駄なことだ。しかも放置物とはいえ、勝手にホウキを使っている。
それでもこの建物の正面くらいはきれいに掃けたと思うので、先を急ごう。すると、またある施設が目に飛び込んでくる。なんて誘惑の多い街角だ。
子供にとって自動販売機は、目に入れば必ずあちこちいじりたくなるスポットだろう。現に自分も子供のころ、駄菓子屋のレジ待ちのとき、いらんボタンをふと押したら1個10円のガムがなぜかころんと出てきてしまい、あわてて口に放り込んで店を出た記憶がある。万引きだ。でもまさかモノが出てくるとは思わず、それを申告するのも恐ろしかったのだ。
「私の中に、オレが戻ってくる」
また心の声が聞こえた。こうなったら、きっちり通勤することなどもうあきらめて、しばし自分解放と行こう。最近仕事で煮詰まってるし、緩急の切り替えも人生大事なはずだ。