町はにおいだらけ
におい採取セットを手に町へ出た。注意して歩いてみると町はにおいに溢れている。車の排気ガスのにおい、女性の香水のにおい、定食屋の焼き魚のにおい。
今日は実験ということでいろいろな種類のにおいを持ち帰りたいと思う。
企画自体に若干変態がかったところがあるので、できるだけきれいなところからはじめたいと思った。ということでまずやってきたのが花屋だ。においを採取するにあたり、バイトらしき店員さんに一応許可を得た。
「インターネットでにおいについての調査をしているんですが、お花のにおいを採取してもいいですか。」 間違ってはいない。
花屋の店員さんは僕の奇行を快諾してくれた。おかげで店内の花の中で最もにおいの強いユリ付近で採取することができた。この調子でどんどん行きたい。
次はパン屋。焼きたてのにおいを持ち帰るのだ。一応許可を求めた。
「自由研究みたいなことをしていまして、パンのいい香りを持ち帰りたいのですが。」 間違ってはいない。
パン屋さんも快諾してくれた。店内を歩き回りながら採取していると「時間がかかりそうですか」と不安そうに店員さんが寄ってきた。確かにこういうことされると他のお客さんが入りにくい。迷惑をかけぬよう急いで終わらせ立ち去った。
そしてハンバーガーショップだ。ポテトのにおいにつられて幾度となく引き込まれている。あのにおいは持ち帰ることが出来るのだろうか。
「すみません、においの調査をしていまして。」 調子に乗って簡単に説明をしたらベテランっぽい店員さんの表情が曇った。
「ええっと、少々お待ちください」 奥で上司らしき人に相談している。なんだかやばい雰囲気だ。
「それはどのような目的の調査なのでしょう。」 ときかれたときにはすでに採取は完了していた。シンプルな道具のおかげだ。「いえ、ご迷惑はおかけしません」と半笑いでその場を離れた。間違ってはいない。
怪しい者ではありません
さらに自然の空気も採取したい。僕の好きな潮の香りだ。海岸でにおいを採取しながら三脚を立ててセルフ撮影をしていると、監視員らしき人が近づいてきた。
「撮影か何かですか」 実はいつかの取材でもこの人に同じ質問をされている。撮影にはどこかの許可が必要なのだろうか。もしくは僕がいかにも怪しかったのか。
「いえ、べつに」 においを取ってる自分を撮っているんです、なんて説明すると面倒なことになりそうだったので簡単に答えて切り上げてきた。だけどにおいだけはちゃんと頂いた。