シャングリラのママの話
エレベーターを2階で降りるとすぐ、シャングリラの入り口があった。
看板のロゴが外と違う。外で見たスッキリとしたロゴはどうしてしまったのか。酒焼けした声で「シャングリラ!」とぶっきらぼうに言われてる様な印象だ。
違う店にするか躊躇したが、とりあえず中の様子を見てみる事にした。
木製の扉を押して中を覗くが誰もいない。
「誰かいませんかー」
2、3回声をかけるが返事がない。
ここはやめて、別の店にしよう。外の看板の雰囲気から第2候補は「るぱん」と決めていた。ドアを閉めかけた時、店の奥からオレンジ色のスーツを着たママが出て来た。ハンカチで手を拭いている。トイレに入っていたらしい。
「あら、どうぞどうぞ」
酒焼けしていない優しい声だった。
ママに促されてカウンター席に座ると、手際良く焼酎の水割りとおくらの和え物が出て来た。ママお手製の「ちょっと軽いもの」。この感じがまさにスナック。そもそもスナックには「軽い食事が出来るバー」という意味がある。
東京から出張で来た事を告げると、ママは東京にいる息子さんの話を始めた。主にお嫁さんとの関係についての話で、要はあまりうまくいってないらしい。
「こないだ東京に行った時も困ったー」
何でも、朝食にご馳走が並んだのを見たママが「あら、旅館みたい」と言った事をお嫁さんが良く思わなかったらしく、「いつもこんなにしませんから」と厳しい口調で返されたとか。「いらん事言った。と思ったけど、謝らんかった。嫌味で言った訳じゃないけん」
嫁姑の難しさを噛み締めている様だった。これが他人の女の同士なのよ、とも言っていた。
ママの話を小一時間聞き、店に入る前の緊張がとけた頃、常連のお客さんが1人でやって来た。既に少し酔っている様だった。
よし、この人と仲良くなろう。 |