●身内以外にハムの人

　まずは身内にハムを贈ることで肩慣らし。次は身内以外の人にもハムを渡してみたい。

　別件の仕事の打ち合わせで待ち合わせをした喫茶店。ハムの人っぷりにも慣れてきたのはいいのだが、なんだか目が変だ。

　ハムのことは伏せつつ、取材をお願いしていた打ち合わせの相手は武藤さん。私の写真を撮りながら「なんでスーツなんですか？」と聞く武藤さんだが、その問いには答えず、これをどうぞと箱を手渡す。

　早くも笑顔なのはすでに喜ばしい何かを察しているのだろうか、それともいぶかしさをごまかすためなのだろうか。

期待と不安の入り混じるまま包みを開き…

　ハムだとわかった瞬間の驚き、そしてすぐそのあとの…

　この笑顔！やはりハムをもらった人の表情はすばらしい。

　　「おお、おー、おー！」

　喜びの声を上げる武藤さん。

　　「スライスなら買いますけど、丸って買いませんからね」

　こちらが意図した丸ハムのスペシャル感もしっかり伝わっているようでうれしい。私としても、大好きなハムを人にあげたかいがあるというものだ。ハムの人側の喜びも十分にある。

　　「僕がなんでスーツ着てるか、わかりましたか？」
　　「……？」
　　「ハムの人です」
　　「…ああ！」

　このあたりについては自分から言い出さないと伝わらなかったのが残念だが、そうだと知ったあとには「そこまで本気なんですね」と、わかってくれたようでうれしい気持ちになった。

　「ハムと私」の写真でもこのポーズ。ハムへの気持ちがよく表れた一枚だと思う。

　　「私、焼肉より全然ハムですから！」

　なんと！！そこまで言ってくれる武藤さん。ハムの人としても本望である。個人的にハムのおいしさと焼肉のおいしさとはかなりせめぎあっている私であるが、そう言い切れるのはすごいと思う。
　

●ハムの人が行く

　今回の試みに当たって、実は秘密兵器を用意していた。

　ハムの箱である。これだけしつこく書けばわかるだろう。

　もちろん人に渡す用のものはこれまでの写真で出てきたものなのだが、あの箱を持って歩いていても道行く人にはハムの人だとわかりにくい。そこでこうしたあんまりあり得ない箱を用意してみた。

　これなら誰にもわかりやすくハムの人である。この箱を持って道を歩き、先ほどインタビューした武藤さんに私の数メートルあとをついてきてもらい、すれ違う人たちの反応を調べてみたい。

　道行く人が私を見て、「あっ！ハムの人だ！」と言えば、このゲームは私の勝ちである。

　歩いてみるとなんとなくこっちを見てるな、というところまではわかるのだが、決定的な一言は聞こえてこない。しばらく歩いてみて、路地に入ったところでひと休み、成果を武藤さんに聞いてみる。

　　「ど、どうでした！？」
　　「うーん…」
　　「ダメですか？」
　　「うーん、『何あれ？』とか『なんか書いてある』
　　 とまでは言ってる人、いるんですけどねえ…」

　見ればわかるだろう、ハムって書いてあるじゃないか。認めたくないのか。

　確かにこんな箱、普通はありえない。すれ違いざまだったらハムだとはわからないかもしれない。さすがにいないとは思うが、もしかしたら「公」と読み違えている人もいるかもしれない。

　再び道行くハムの人。今度は途中でわざと箱を落としたりして、通行人の注目を集める工夫をしてみた。

　　「ど、どうでした！？」
　　「うーん…」
　　「やっぱり、ダメですか？」
　　「うーん、『ハムだって…』と怪訝そうに言ってる人
　　 はいましたが…」

　惜しい…。

　やっぱりハムの人だとはっきりわかってもらえなかっただろうか。確かに今回の試みはハムの人としては季節はずれ、お中元やお歳暮の時期にやってみるとまた違った結果が出てくるのかもしれない。