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はっけんの水曜日
 
ここ日本じゃないのかも、という学園祭

中庭の舞台で、何やらチアガールの演技が始まった。
「……な、なんかもんのすごいフレッシュなんですけど」
「茶髪、やっぱりいないですねえ。女子大生とは思えないほどスレてないですねえ」
「女子高生、と言っても通用するような可愛いさですね」
「傾向は……モーニング娘。で言うと、紺野!?」
「そう、紺野っぽい!」
「コンコンがいっぱい!」



梶原さんと私はモー娘。好きなので、ワケがわからない結論に至ってしまった。
ああ、キラキラしている。見ているだけで涙が出そうだ。
「イエーイ! ワンツー!」というかけ声も、外語大=外国語の出来る女の子たち、ということを頭に刷り込まれているので、不自然な感じがしない。

しかし演技は、ものすごくアクロバティックなものだった。ほとんど組体操。



「うひゃー」
口をあんぐり開けてみる。

「……次、ベリーダンス行きましょうか」

校舎に入っていく。客引きの女の子が、すでにベリーダンス衣装だ。もう、ヘソ出しまくりだ。
しかも、昨今のギャルみたいにガリガリ痩せておらず、ブリトニー・スピアーズみたいにうっすら可愛らしい脂肪が、おかなを包んでいる。
か、可愛い……。
これも「外国直輸入の美意識」のせいなんだろうか?

公演の観覧費は、200円ポッキリ。
教室を光沢のある布でかこった、特設ステージ。靴をぬいで、体育座りで見学する。
私たちは、なぜか最前列。

公演が始まる。もちろん全員、現役女子大生だ。
カルチャーセンターでおばさまたちが踊ってるヤツとは違う。本物の若い娘が、無心に踊る。
ひらひらくねくね……。



「……こんな安いお値段で、こんな寄り寄りで、他人の青春を見ちゃっていいんだろうか」
川越・ウォーターボーイズモデル校の公演を見た時と同じくらいの衝撃だった。



最後は踊り子さんが観客の手をひいてきて、一緒に踊れる。
……私も踊ってみたかったのだが、カメラ撮影のほうにばかり気をとられて、参加出来なかった。梶原さんは「ワーイ!」と一緒に踊っていた。

公演後、梶原さんは「緑の子! 緑色の衣装の子が可愛かったあああ!」と興奮ぎみ。
「私は白い子ですねえ……って、あ、緑の子、表にいますよ!」
「わー!」

彼女に駆け寄って、挨拶をする。「よかったですうう」「一緒に写真撮ってくださああい!」
私は梶原さんの「写るんです」でカシャ、と記念写真を撮った。写真慣れしているのか、緑のコは見事なポーズを決めてくれた。
「実は、私、チェコ語のOBなんですー」
「あ、本当ですか!? 私もチェコなんですよ」

なんと、緑色のベリーダンサーは、チェコ語を学びながらベリーダンスを踊る女子大生だったのだ。

あのう、こんな衣装着てますけど、名前はイトウっていうんです〜」と彼女は言った。

……放心状態でベリーダンス会場をあとにする。
「次、ロシア民謡パブに行ってみたいんですけど……」
「あ、いいですよ」

校舎を出て、仮設テントの下に、ロシアパブはあった。ここでもウォッカ充実、「スピリタス」もまた売っていた。



桃のウォッカを頼みながら、何がいちばん売れているかきいてみる。
「そうですねえ、お湯とハチミツとウォッカを割った、ハニーウォッカが、女の子に人気です」
……いくらハチミツで割ったって、ウォッカはウォッカ。しかし、横で見ていたら、女の子たちがばんばん買っていた。

中のイスに座る。ギターを持った子が座っている。バラライカも置いてある。

「こんにちわー、あなたは、ロシア語やってるんですかあ?」
「いや、僕はタイ語なんですけど」
……タイ語でロシア民謡好き。ワケわからんが、もう驚かなくなっていた。慣れてきた。
「あ、タイ語卒で、Kくんっていう知り合いがいるんですけど、知ってますかあ?」
「知ってます!」
……こんなところで、知り合いの知り合いに逢ってしまった。世間は狭い。
「Kさんって、面倒見がよくて、とてもいい人ですよ。でもスケベですけどね」
……はははは、と、どう反応していいのか分からぬまま、とりあえず「カチューシャ」を歌ってもらう。


ああ、哀愁のメロディ。

「次、スペインオムレツ食べに行きましょう!」
梶原さんに連れられて、また別のテントにもぐり込む。
「わー久しぶりー」「おー」
「あ、この人はアラビア語のフジカワさん、ウルドゥー語のエンタさん、スペイン語のオガタさん。
この人は、10年も、スペインオムレツ焼いてるんですよ!」
……語学は奥が深い。留学に行ったり、研究者になったり、社会に出てからまた別の言語を学ぶために大学に戻ったりと、「いったん卒業しても大学に関わる率」が、とても高いらしい。
確かにここは楽しい。日本じゃないみたいに、皆、親密だ。
それは実際、皆が留学などをして、外国人と接して帰ってきて、「日本の常識」と違うものを学び、持ち寄った結果なのかしもしれないなあ、と思った。


スペインオムレツは、たいへんに美味しかった。



スペインオムレツの店では、ラオスビールが100円で売っていた。「なんで100円?」ときくと、「去年の残りだから」という回答が。まあ、南国っぽくて美味しいビールでしたが。

「次、チェコ語劇、見に行きましょう!」
外大祭では、外国語劇がずっと上演されている。かかっていたのは、カレル・チャペックの書いたSF、『ロボット』。


ちなみに字幕はプロジェクターで出るので、内容は分かる。

「ロボットって、チェコ語から産まれた言葉なんですよ」
「へえ〜、というか、カレル・チャペックって、犬と園芸のエッセイしか読んでないので知らなかったんですけど、こんなシニカルな近未来モノなんか書いてたんですねえ」
「いろいろやってた人なんですよ」
もらったパンフレットのプロフィールを見たら、チャペックは「純文学、SF、推理小説、戯曲、童話、評論、伝記、旅行記、エッセイ」と節操なく書いた人のようだった。亡くなったのは48歳。若っ。

芝居が終わると、私達は即効で外に出て、チラシを配った。実は梶原さんは来年、チェコをテーマにした雑誌を創刊するのだ。私はそこに、ちょっとだけ参加させてもらっている。

チェコ人の先生もいた。梶原さんが、チェコ語で何か喋っている。
「あー、全然意味わからないけど、『ハイ、イイエ』が『アノ、ネ』で、ハングルの『イエー、アニョ』と逆だなー」なんて、少ない知識を総動員しながらながめていた。
……英語が出来ないと、コンプレックスを感じるものだが、それ以外の言語だと「わからないけど、仕方ないやー」と思ってしまう。

最後にサンバハウスに行った。ここも仮設テントだ。中ではバンド演奏、後ろではアルコール販売、ステージ前ではやはり、現役女子大生の踊子さんが、


またもや、健康的なおヘソを出して、元気に踊り狂っていた。



「みんな留学帰りなのかなあ……頭のいいちゃんとした女の子が、いい学校に進学して、でも外国文化に触れちゃって、いつのまにかヘソを出すに至る経緯っていうのが、知りたいなあ……」
「っていうか、こんなにヘソばかり見た1日は、初めてだなあ」

カルチャーショックだった。
ほんとに変な学園祭だった。大学生ノリ、とも違う。もちろん高校生ノリとも違う。
世界中の「外国」と「青春」が入り乱れた、不思議な空間。
有名人のバンドを呼ばなくても、講演会をしなくても、ひたすら楽しく盛り上がる、でもウチワ受けでもなく他人を迎え入れている、ちゃんとした「お祭り」。
「関東でいちばん面白いのは『外語祭』だ!」という噂はは聞いていたのだが……ホントだった……。

来年は、貴方もゼヒ、行ってみて感じてくださいーい!! 超おすすめだっ!!!!!!!


●ちょっとお知らせ
人気チェコサイト「チェコ人になりたい女の子のおはなし」が放つ
チェコ総合情報誌CUKR[ツックル]鋭意制作中!
2005年2月発行予定、チェコフリークのために、チェコだけで80ページ!
ライター大塚もなぜか参加しています。
よかったら読んでね!!

↑表紙候補の便所タワシケース(チェコ製)。

 



 

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