12曲目
『モルヒネ』椎名林檎
林檎ちゃんの特集記事は、本人にインタビューを断られたまま作ることになった。担当した私は悔しくてヤケクソになり、必死で記事ネタを探した。
「新宿に『椎名淫語』っていうヘルスがあるよ!」と知って、店長さんに手紙を書き、インタビューを申し込んだ。店長さんを待っている間、狭いプレイルームに通された。「こんな機会がなければ、入れない場所だよなあ」と思ってドキドキした。壁には、林檎ちゃんのセカンドアルバムに使われた書体で、プレイメニューが書いてあった。
「どうも、おまたせしました」と現れた店長さんは、スーツ姿で後ろ髪を少し伸ばしていたけれど、文系の香りのする、落ち着いた感じの方であった。
当時まだあった新宿のスカラ座に移動して、お話を聞いた。彼は私と同い年だった。「こういう雑誌の取材なんて初めてですよ、嬉しいです」と『椎名淫語』にした経緯や反響を、丁寧に話してくれた。
その時「音楽が好きなので、将来はロックカフェをやりたいんですよね」とおっしゃっていたのだが、今年オープンしたらしい。オープニングパーティにお誘い頂いたのだが、行けず、そのままだ。Tさん、お元気だろうか。
ビールが飲み終わったので、レモンサワーをリモコンで頼んだ。これも迅速に出てきた。ドアが開き「レモンサワーでございますー」と言って店員さんは膝をつく。そして丁寧にグラスが置かれる。私はその間、恥ずかしくて歌えず、「あ、どうもですー」とか言って誤魔化す。
熱が出て来たようで、頭がじんじん痛くなってきた。レモンサワーのグラスをおでこにあてる。
死にそうだと思いながら「『モルヒネ』ってこれ、オナニーの曲だよ!」と知人が言っていたのを思い出した。
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