見知らぬ人たちに混ざって……
教室は満員だった。大人と子どもの割合は7:3くらい。中には親子連れもいる。
僕は一番端っこの席を用意してもらい、最初に自己紹介をさせられた。
「は、はじめまして。あの、インターネットで記事を書いていまして、本日は、その、体験入学ということで、絵が描ける様になれれば……、えーっと、よろしく、お願い、します」
日曜日の朝に、見知らぬ人たちの前で自己紹介。どちらかというと罰ゲームっぽいが、お陰で一気に目が覚めた。
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キミコ方式では、ネコジャラシをこう描く
「まず、ここにあるネコジャラシの中から、好きなモデルさんを選んでくださいね」
机の上に並べられるネコジャラシ。さっき摘んできたやつだ。
「絵が苦手って人は、大体理想が高い人なんですね。だから、モデルさんを選ぶ時も複雑な形をしたものを選んじゃうの。でも、それって大変でしょ。途中で描くのが嫌になっちゃわない様に、簡単な形をしたものを選んでください」
モデルさんを選ぶところから、キミコ方式は始まっているのだ。
なるべく簡単そうな(葉っぱの数が少ない)ネコジャラシを選び席につく。
その後、黒板を使って具体的な描き方の説明がある。
1.植物は成長する順番で、色を作りながら描いていく
3.穂の中のくきは点々で表現
4.穂の中の種を描く(真ん中、左、右の順番で)
5.穂の毛を描く
6.最後に葉っぱを描いて完成
キミコ方式は細部から全体へと描き進めていく訳で、今回のネコジャラシの描き始めは茎の根元。そこから上に描いていく。ちなみに毛の生えた動物は鼻から、それ以外の動物は口から描く。
しかし色が作れない
一通りの説明が終わり、いよいよ実践。しかし、最初からいきなりつまづく。
茎の根元から描き始めるのは分かったけど、その色を作るのが難しい。教室の皆さんは1回目の授業で色づくりを習っている。しかし、僕はネコジャラシの緑をどう作ったらいいのか分らない。青と赤を混ぜておかしな事になっている。緑は青と黄色だろ。
「どこでやめても立派な作品」とはいうものの、さすがに色づくりでは終われないだろう。
「そうだろ? 人生は試練だ」
道場で受け身をやらされている記憶がどんどん鮮明になっていく。パチンパチン。
駄目だ。せっかくのキミコ方式、楽しまずして何になる。
「あーら、奥さん、綺麗だわ」
「そんな事ないわよ、奥さんの方が綺麗よ」
向いの主婦がお互いの作品を誉めあっている。
あなたよ、いえいえあなたよ、というやり取りが永遠に続くかと思われたが、「人の作品って良く見えるのよねえ」という事で落ち着いていた。
「人生は試練…」
いや、違う。
試行錯誤を繰り返すうち、ようやく緑がしっくりくる様になってくる。
ほら、楽しくなってきた。
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