午後はゆったり
配達が終わるともう12時前。追加注文が特に入らなかったので、築地へは行かずに店に戻ると、ヒデさんは帰ってしまった後だった。
それをいいことに、ヒデさんが使っていた念願の魚屋エプロンを着けさせてもらう。そうそう、これが着けてみたかったんです。やっぱり何でも形から入らないと。よし、今日はこれからバリバリ魚屋として働くぞ。
しかしながら、若だんなに言わせるとこの日は「ここ1年でも珍しいぐらいヒマ」なのだそうだ。注文が普段の4分の1程度だったらしい。普段は配達するそばから追加注文や配達の催促の電話が鳴るというがそれもナシ。
前日に雨が降ると、料理屋が混まないので翌日の注文が極端に少なくなるそうだ。なるほど。
「商売だからな、そうゆう日もあるよ」
いつの間にか出社していた社長もため息顔だ。
エプロンを着けてしまった手前引っ込みが付かなくなったので、私もまた掃除でお茶をにごす。魚屋の床は普段からよく掃除しなければならない重要ポイントだそうだ。魚を捌いたときの血はマメに流さないとすぐにコンクリートに染みついてしまうのだという。社長曰く、交通事故の現場をおまわりさんがすぐ流すのと一緒、だそうだ。
その後、午後の配達に行き、近所の氷川神社に商売繁盛をお参りし、電球を取り替え、社長の肩を揉み、雨で浸水した靴下を乾かし、コーヒーを飲み、また社長の肩を揉み、なんとなく一日は過ぎてしまった。もしかして私が貧乏神なのではと疑いたくなるほどのヒマぶり。大丈夫か、ここんち。
しかし、店のシャッターをおろしながら、午後中死んだ魚の目をしていた若だんなの目にはちょっと生気が戻っていた。
「あー参ったな、暇な日の翌日ってものすごく忙しいんだよなあ」
きっと明日は忙しい。だから商売は面白いのかもしれない。また来てもいいですかね。邪魔にならないコツはつかめたつもりです。今日はありがとうございました。 |