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はっけんの水曜日
 
耳うどん紀行
「耳うどん」……その名前だけで、グッときていた。
「耳うどん」は、栃木県佐野市前にある、ローカルフードだ。
「うひゃあ、猟奇的な名前……」「何かの動物の耳が入ってるの?」と思ってしまいがちだが、単純に「小麦粉を練ったものが、耳の形をしている」食べものだ。

実物を見てみたい。
秋のある日、私は佐野市に向かった。


(text by 大塚幸代

……初めて乗った両毛線の中からは、ひろがる田んぼと、まるい山と絶壁と、赤い彼岸花が見えた。
乗り継ぎが悪かったせいか、都内から佐野駅到着まで、3時間ほどかかってしまった。



駅前は思ったよりも広くてきれいで、噴水もあった。

「こ、ここが佐野ラーメンと、厄よけと、いもフライと、耳うどんの町か!」

……しかし、肝心の「耳うどん」屋の場所が分からない。佐野駅に近い、という情報しか持っていなかった。
どうしたものかと考えて、駅前のセブンイレブンの横にある、レンタサイクルを借りることにする。
店員の女性に聞き込み開始。

「あのう、このへんに、耳うどんの店があるって聞きましたが……?」
「ああ、それならですねえ、
ここまっすぐ行くでしょ、すると市役所があるのね、そこを左にまがってまっすぐ行くと、右手に信用金庫と、ノアっていう英会話教室があるから、そこの近くにありますよ」

ノア? ノバじゃないのか? 
信号を何個目とか、そういう説明じゃなかったので、きっと彼女も地図が読めないタイプの女性なんだなあ、でも私も読めないタイプなので、かえってこういうアバウトな説明のほうが分かるかもなあ……なんて思った。

「歩ける距離ですよ。うどん屋さんに行くだけだったら、徒歩でも大丈夫ですよ」

商売っけのないレンタル屋さんだ(ちなみに2時間で180円だった)

「いえ、厄よけとかにも行きたいので……」



自分の所有してる自転車はマウンテンチャリなので、こういうママチャリに乗ると、おしりがすとんと落ちた気がする。
あー他人の自転車だあ、と思いながら乗る、知らない町は楽しい。
静かで古い町並みのなか、



観光客向けの、派手なラーメン屋の前を通り抜けると、



「耳」の看板を発見。「むおっ」と思ってよく見たら、補聴器屋さんだった。間違い。

そのまままっすぐ行くと、信用金庫、英会話教室「ノア」(やっぱりNOVAじゃなかった)の隣に、あった、あった。



そば屋「野村屋本店」。



店頭には、床屋さんみたいに回転する「耳うどん」看板が。



入り口のマットも「耳うどん」だ。



平日だし、昼時も過ぎていたので……客はいなかった。
メニューを見て、



「耳うどん」を頼む。
店内を見回すと、「TBSアナウンサー」とか「テレビ東京『レディス4』レポーター」とか、微妙なサイン色紙が並んでいた。
奥のほうには、なぜか引田天功のサインもあった。テンコーさん、食べたんだろうか……?

……出て来た器を見て、驚いた。金色。豪華だ。



……そういえば「耳うどん」は、もともとお年始に、地元の人が作って食べる料理だという。
「うどんを鬼の耳になぞらえて、年はじめに食べてしまえば、一年間悪いことが聞こえない」という、いわれがあるのだとか。
縁起モノの、「正月料理」なのだ。

フタをあけると、むわ〜っと、懐かしい「正月のにおい」がした。
雑煮と、おせちのような匂い。
醤油とシイタケとダシの匂い……。



だてまき、カマボコ、なると、とり肉、ネギとニンジン、そしてカニかまが入っていた。
ゆずも入っている。風味がいい。
これだけ「正月っぽい」アイテムが入ってたら、そりゃ正月の匂いするよなあ、と思いながら、問題の「耳」を、まじまじと観察してみる。



……確かに耳だ。



ちなみに裏っかわは、こんな感じ。


おわんのフタの裏にも「耳うどん」の文字があっった。特注品なのでしょう。


味は……とくにすごく美味しい、というものではなかった。
形は特殊だけど、うどんは、うどんだ。ワンタン的な味のうどんだ。
そしてやっぱり、シイタケ&しょうゆダシのしみた、甘い伊達巻きをかじるのは、年に1回くらいが妥当なのかもしれない。
でも、ここ近辺の出身の人は、お正月になると「あああ耳うどん食べたい!」とか思うんだろうなあ……と思った。



 

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