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特集


ロマンの木曜日
 
うなぎを待ちながら

じゃあ、早速
飾り棚に招き猫がいっぱい
ビールから熱燗へ。ネクストステージ突入
出しっ放しのファンヒーター
気づけば雨が降り始め
お酒は2合目に突入。うなぎはまだこない

部屋にはエアコンの音だけが響いている。大きな音だが、部屋はそれほど冷えていない。「リモコンがありますから、暑かったら温度を下げてくださいね」
女将さんからリモコンを渡され、温度を2度下げると更に派手な音がし始めた。

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そしてうなぎを思う

江戸の粋を今に伝える落語にも、うなぎの出て来る話は多い。
中でも有名なのが「うなぎの幇間(たいこ)」。一八(いっぱち)という野だいこ(特定の席を持たないたいこ持ち)が、うなぎをご馳走になろうと見ず知らずの男に取り入る。うなぎ屋の二階でさんざんよいしょしているうち、相手の男は便所に立ち帰ってこない。女中に聞くと先に帰ってしまったという。お土産まで持っていかれ、挙げ句の果てには自分の履物まで履かれてしまった、という話だ。

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ビールを飲み終えたので、今度は熱燗を頼んだ。剣菱1合、400円。白い徳利とおちょこが机の上に並ぶ。「うなぎ屋の徳利は無地がいいよ」、落語の中でたいこ持ちが言っていた。


時計を見ると待ち始めてからまだ10分しか経っていない。携帯は圏外。メールチェックも通話も出来ない。ただ、うなぎを待つだけの10分は想像以上に長い。

例えばこの10分間、東京都では……
21人が出生し、19人が死亡し、13組が結婚して、5組の夫婦が離婚する。108人の外国人が入国し、0.4人が刑務所に収容される。(総務省 統計局資料参照)

って事になっている。
静かな離れでうなぎを待っていると、そんな事とは全く無縁だ。

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そして再びうなぎについて

京都ではうなぎを腹から開き、東京は背から開く。切腹を想像させるのでそれを嫌い、江戸では背から開いたといわれている。
   
土用の丑の日を提案したのは、コピーライターとしても活躍していた平賀源内。という説が有力だ。
   
日本のうなぎは、遠くマリアナ諸島の海から泳いでやって来る。

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エアコンの音が更にうるさくなったと思ったら、雨が降り始めていた。
「ざーと降って、止んでくれたらいいんですけど」
2合目の剣菱を持って来た女将さんが言った。
「そうですね、食べ終わる頃には止んでくれると、助かります」

30分が経ち、まだうなぎは来ていない。
雨を見ながら、マリアナ海のうなぎを想像してみる。


 

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