ようこそ気になるバス停へ
実家に帰るときいつも使うバス路線に、ずっと気になっているバス停があった。
「住宅前」。わかると言えばわかるのだが、言いたいことはそれだけだろうか。もう少し何か言ってくれないだろうか。
交通機関の停留所を名乗るからには、やはり何らかの説明がほしい。この「住宅前」でも「住宅の前だよ」という説明はわかるのだが、あまりにも漠然としすぎてはいないだろうか。
「次は、住宅前」の車内アナウンスが心にひっかかりながら、いつも通り過ぎるバス停。
そんなバス停の実態を確認すべく、別に用もないのに「住宅前」に行ってみた。改めて見るにつけても、他には何の説明もなくきっぱりと「住宅前」。バス停は黙して語らない。
そう名乗っているからには住宅があるのだろうとよく観察してみるが、これといって特徴的な住宅があるわけではない。特に変わったところのないマンションが建っているだけだ。
これか、これのことなのか。もしかするとそうかとは思っていたが。
前のバス停からの距離からして、ここにバス停を作るべきだという状況が先にあったのだと思う。「まずバス停ありき」という条件のもと、この漠然としたバス停は生まれたのではないか。
そう思うといよいよ薄れていくバス停名のアイデンティティ。
きっと世の中には、もっといろいろな出自を持ったバス停があるのだろう。バス停への不毛な感情移入は、私を書店へと走らせた。
バス停ファンのバイブル
地図コーナーで一番すごそうな地図を手に取ってみる。……おお、バス路線と停留所名までしっかり載っているではないか。
これさえあればどんなバス停にも確実にアクセスできる。湧き上がる興奮。
よくわからない勢いにまかせてレジにて購入。前からこの地図の大きさと分厚さは気になっていたのだが、価格が高いこともあって買うのをずっと躊躇していたのだ。ついに購入へと踏み切らせたのはバス停だった。
早速気になるバス停をサーチ。みるみる増えていく付箋紙。旅の準備はできた。さあ、これ以上ないくらい地味な冒険へと出発だ。
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