まず食う
「と、とにかくコロッケを食べましょう!」
「そうですねえ……」
どこの飲食店も静かで、入りやすい感じではなかった。
思いきって「喫茶店ドリーム」というところに入る。町の発行しているコロッケマップには、「町内会グループオリジナルの『まいんコロッケ』が食べられる店」と紹介されていた。
「いらっっしゃい〜」
優しそうな女性が迎えてくれた。奥には常連らしき男性がひとりいて、スポーツ新聞を読んでいた。
メニューを見る。
「……コロッケ」
「載ってないですね……」
女性が水を運んできて言った。
「あ、メニューにはないんですけど、……コロッケですか? 2人分?」
「はい、あとブレンド…」
「私もブレンド」
「ゴハンつける?」
「あ、いいです」
「私もいいです」
店内を見回す。女性店主の趣味なのか、焼くと陶器になる、粘土のクラフトが、ところせましと並べられていた。花の細工だ。
ジュー、と油をあげる音がして、しばらくして、コロッケとブレンドが、おぼんに乗って運ばれてきた。
「これ、黒豆のコロッケね。こっちはおから。ピーナッツのもあるんだけど、今日はないので、これは普通の。……東京から来たの?」
「は、ハイ」
「そう〜、そうなの」
コロッケはほんとに、手作りっぽい、素朴で健康にいいような味だった。母たちの味。
値段はコーヒー込みで600円だった。コーヒーが400円だったから……やすい。
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