点火
準備ができたところで両者一斉に点火した。あとは食材の頑張りにかかっている。減れ、そして増えろ、食材達よ。しばらくは静かに煮込む。
黙って何か考えていた住さんが沈黙を破った。
「あのー、この“増す鍋”って、単に乾物を戻してるだけのことなんじゃないですか?」
うーん。ごもっとも。しかし、それではこの特集が終わるってしまうので聞かないフリをして続ける。
どこかやぶれかぶれの雰囲気が漂うの中、鍋の中は刻々と変化し続けていた。
「あー、ちゃんと減ってきてるし、増えてきてますよー、すごいですねー」
冷静に事態を見守っていた浜中さんが、当初私の描いたシナリオ通りに驚いてくれた。いい人だ。後で聞いたところによれば事前に菓子パンを食べてきていたらしい。お腹の余裕が態度の余裕に反映されている。
「それじゃあ、そろそろ試食お願いします。」 おそるおそる言うと早速林さんが増す鍋に箸を伸ばした。
「わあ、なんか布団みたいな感触ですよ……」
ふとん?
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