「青春18きっぷを使って旅に行くっていう企画が通りそうなんだ。それを使って一緒にどこか行かない? チケットは1枚支給されると思うから、もう1枚は半額づつ出してさあ」 「ほんと? じゃあ私、四国いきたいなあ」 「いいねえ、のんびりとねえ」 「美味しいもの食べて、お酒飲んでゆっくりと」 「たまにはねえ」 そう友人と話していた。………言い出しっぺは私だ。 「18きっぷウイーク」の企画をwebマスターの林さんに提案したあと、体調悪くて会議を休んでしまったら、「チケットはひとり1枚じゃなくて1回分、お泊まりナシで日帰り」ということになっていた。しかも取材は、私のスケジュールが厳しい時期であった。 自分でお金出しますから、スケジュールか変えられませんか? と言うと、「ダメです、もう決めちゃいましたー。みんなもう、行くところ決めちゃったんで、そうですねえ、名古屋が開いてるので、名古屋に行ってきてくださいー。もちろん日帰り。行きが6時間、滞在が6時間、帰りが6時間かかりますけどね。あはははははははは」と言われたのだった。 鬼だ。 そりゃ、名古屋には興味があるし、遊びに行ったら楽しそうだ。しかし……。 「いいよ、日帰りでも。行く行く、面白そうじゃない」と友人は言った。
今回は「疲れた大人が無理して遊びに行くとどうなるか」という記録です。
(text by 大塚幸代)
7時40分。東京駅集合。
前日、眠れなかった。横になる寸前まで、たまった仕事をしていた。横になったら胃がキリキリと痛み出し、仕方ないので鎮痛剤を飲んでフトンにくるまっていた。そのまま朝になった。 ヨタヨタと駅に向かう。おぼん明けの朝は静かで、空はどんより曇り、途中通りかかった空き地ではノラ猫が排便していた。目が合った。旅の始まりから、ダメな感じ。
今回は高校時代からの親友がいっしょだ。長く友達なのに、お互い忙しくて一度も旅行をしたことがなかった。でも彼女がこの夏、会社をポーン辞めてヒマになったので、同行してもらうことに。 フリーという名の無職&期間限定マジ無職の30女がふたりで、青春18きっぷ。社会人経験があり、それなりにしょっぱい目にあい、働いて働いて、身体をこわしたりして、夢も希望も既にスカスカ。そんな2人が無茶をする、青春18きっぷ。まあある意味これも青春かもしれない。
通勤客に混ざって座り、おにぎりを食う。 しかし、ひたすらトイレが心配だった。私は時刻表を読むのがまるっきりダメで、どの電車にトイレが付いてるか付いてないか、分かってなかった。「18きっぷ 鈍行電車トイレリスト」というサイト、あったら便利なのに。 自腹で買った名古屋ガイドブックを見て、プランを練る。 「味仙」という台湾料理店のラーメンが食べてみたかった。6.7年前に、名古屋出身の知人から「びっくりするほど旨い」と言われて、ずっと食べたかったラーメン。他には特に考えていなかった。 友人は 「ミソかつ食べたい。昔、名古屋出身の知人が『東京のミソかつなんて、まるっきりダメ、名古屋のはびっくりするほど旨い』って言われたから」 と言った。そんなんばっかしだ。
向かいに座った青年(18,9くらい)が、ひとり時刻表を見ていた。何やらノートに書き込んでいる。おお、彼は本来の18きっぷターゲットユーザーだわ、と思う。こんなヒヤカシの大人なんかよりずっと楽しい、心に残る旅行をすることだろう。
席はせまく、まったく足がのばせず、長く同じ姿勢でいるとむくんでくる。シリが痛くなる。生理前で体調は最悪だったので、イライラはどんどん強くなっていった。
でも、西に行くにつれ、空気は気持ち良くなっていった。空も晴れてきて、海が見えた。
静岡かどこかの駅でみかけた、富士山のくせに、足が生えている「わかふじ国体」のキャラクターの看板にも笑った。