●あしたのためにその3
「マンモス西のうどんを食べるべし」
泪橋の下の「丹下拳闘クラブ」にはジョーの他にマンモス西という所属選手がいた。ジョ−が鑑別所に送られた時に知り合ったジョ−の良き理解者でもある。
そんな西はヘビー級クラスの体格をミドル級に保つため、減量を強いられるが耐えられず夜中にジムをこっそり抜け出し屋台のうどんを2杯かっ食らう。
その姿を見つけたジョ−は西のボディにパンチを喰らわせ
「こんな所を見たくなかったぜ、西
ぶざまだな、みじめだな、ええ おい!」
と罵倒される。
「わ…わいはあかん…、だめな男や」
鼻からうどんをたらして泣き崩れる西。
〜「あしたのジョ−」文庫版(講談社)第5巻より〜
あしたのジョ−の名場面だ。
せっかく山谷にやって来たのだから、マンモス西のうどんを食べたい。
勇気を出して「そば処ほてい家」ののれんをくぐった。
「ほてい家」の店内には先客が2人いて、2人とも酔っぱらっていた。
店のおばちゃんにかけうどんを注文。450円。
先客は2人とも店の馴染みらしく、ずっとおばちゃんと話している。テーマはドラム式のコインランドリーについて。
「ドラム式はいいけどよー、普通のより200円も高いんだぜ」
「いいじゃない、200円くらい。綺麗になるんでしょ」
「洗濯1回700円はよー、この街の設定からすると高すぎるよ」
「あなたはかせぎがいいんだから、それくらいいいじゃない」
「パチンコに2万ぶっこむのは何でもねえけど、洗濯に700円はヤダね」
「パチンコに2万も使うんだったら、うちで1週間豪遊してよ」
「はは、そうだな」
背後でやりとりを聞きながら、やけに味の濃いかけうどんをすする。
日が暮れる前にこの街を出よう。
そうしないとカオナシが現れて僕は現実の世界に戻れなくなってしまう。
やおよろずの神々が疲れを癒しにやって来る前に、僕は山谷を後にした。
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