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コネタ


コネタ1088
 
うちにいた、未知の深海生物
キワ・ヒルスタ!

「キワイダ、キワイダ、キワイダ……」
甲州街道を呪文のようにつぶやきながら帰路につきました。

イースター島近くの深海で発見された未知の甲殻類、「Yeti Crab(雪男ガニ)」のことが頭から離れなかったのです。

エビともカニともつかないビジュアル。
クリームがかったボディーカラー。
目は退化し、その痕跡だけがみられるといいます。
そしてなによりも、ハサミについたおびただしい毛を目の当たりにするとホレ、研究者らも「まるで毛皮を着たロブスターの様だ」と、文学的に……。

私もキューティクルーミーな毛に一発でヤられてしまいました。

どの科目にも属さないことから、新設された科名が、キワイダ。
怪獣的ネーミングにもイースター島ならではのロマンを感じました。
そういえばこの島にはモアイ像があります。イミはとくにありません。

 

学名「キワ・ヒルスタ(Kiwa Hirsuta)」
Kiwa キワ----甲殻類の女神(ポリネシアの神話より)
Hirsutaヒルスタ----荒い毛の生えた、毛むくじゃら(ラテン語から)

(text by 土屋 遊

「キワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、ヒワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キライダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、コワイダ、キマイラ、キワイダ、キワイダ、キモイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キワイダ、キカイダ、キワイダ、キワイダ……」

うなされつつ我が家のドアをあけると、一瞬、見たこともない物体が目に飛び込んできました。

え……。


ここは土屋家でよろしいでしょうか……


なにこれ?ケセランパサラン?

かつての同居人が帰宅するなり、「ここって俺んち?」と聞いてきた時のことを思い出しました。彼は頭がやられていましたから、もしや私も……と不安がよぎります。

苦々しい思い出とヘンな物体から頭を切りはなし、冷静を装いました。
いつものようにカギを棚の中に……。

はっ!キ、キミは!



私の大好物、の、ようなものでは!?


すぐに扉を閉めましたが、どうやら大好物のようなもののマボロシを見てしまったようです。あれは刺身するには大変ですが、手を血だらけにしてまでも身をとって食べる価値があります。世界で2番目に好きな食べ物(ちなみに一番はアワビの刺身です。よろしくお願いします)にはちがいないものの……腹が空きすぎて幻覚でもみているのでしょうか。私はいったいどうしたというのでしょう……。

「何ごとにも動じてはいけない。動揺したら負けだ」

という祖父の言葉が頭をよぎり、落ち着きはらって帽子をとりました。帽子はいつものカゴの中へ……

ん……?



あれ……


くるまさん!(車だん吉の発音でおねがいします)


エビのような生物でした。しかも車エビのような生物です。伊勢ではないけど車で十分です。
私を待ちかまえ、あざ笑うかのように、高い場所から見下ろしています。
ヤツの脳みそはススるとおいしいですよね、手についたミソを舐めるのもオツな食い方ですよね、でも何も見なかったことにしましょう。

 

ネットジャンキーの私が帰宅直後にまずすることといえば

 

 

 

「パソコンの電源を入れる」

 

 

 

 

再会!?


ジャンキーですからモニタから目をそらすわけにはいかないでしょう。
こうなったら、目の前の生き物を信じるしか道はなさそうです。

そうでした、祖父はこんなことも言っていたのでした。

「自分の足で歩き、目で見て、手で触り、自分の頭で考えろ」


私は仰せのとおりに、危険をかえりみず未知の生物に手を伸ばし、自分の頭で考えてみることにしました。



うーーーむ……


瞬間移動をかましたワリには意外とおとなしいな、と考えました。おとなしいというよりも「不動」というコトバがぴったり。なかなか腰の据わった生物のようです。

そういえば数時間前、魚屋のおばちゃんが

「生きてるの持ってきな、活きのいいのがあるよ」

などと言ったっけな、と考えつつ

「ダメダメダメダメ死んでるやつにして」

と、答えたような考えも浮かびました。



私の考え:不良  理由:モヒカン


なにがなんだかわかりませんが、私は動じません。

すべてを受け入れることにしたのです。
「新種の第一発見者」という名誉な肩書きを想像してほくそ笑んだり、学名を考えたり、パリの国立自然史博物館に招待されたときのことを考えてフランス語の勉強をしなくては……と思い悩んでみたりしました。とりあえず「ジュテーム」は流暢に言えます。

ひとしきりフランス語の練習をしていたらいきなり目の前に大御所があらわれました。

少しひっくり返りそうになりました。

 

 

 

 

ボ、ボス?

 

 

なんとなく、哲学的な面持ちのボス。
正面から見るとたいへん愛嬌があり……

 

 

 

 

しかもちょんまげでした。

 

 

しかし、本当のボスはほかにいました。

 

真犯人

真犯人ではありませんでした。「髪をなでながら願いごとを唱えると叶う」と言われている、ノルウェーの民話に出てくる妖精、トロール。
さては彼が……
「未知の生物をみてみたい」という私の願いを聞き届けてくれたのかもしれません。
それにしてもトロールさん、すごい目をしていますね。この目をじっと見ていたら、どんな願いも叶ってしまいそうです。気が大きくなってしまってたいへん危険だと思いました。マネしないでください。


 

それでは、私が発見した未知の生物たちを発表します。

リュウテンサザエキワイダ科 サザエ属
学名:Hirsuta-<FUGUTA>Turbo cornutus

ワタリガニキワイダ科 ガザミ属
学名:Hirsuta-<EDWARD>Portunus trituberculatus

クルマエビキワイダ科 クルマエビ属
学名:Hirsuta-<DANKICHI>Penaeus japonicus

ホウボウキワイダ科 ホウボウ属
学名:Hirsuta-<CHONBOU>Chelidonichthys spinosus

トロールキワイダ人形科 貯金箱属
学名:Hirsuta-<DonKing>Trolls Doll


夢のあと

「世界は広い。自分の見たものだけを基準に考えてはいけない」

そんな祖父の言葉を、アナタに捧げます。

「笹塚に、深海生物がいたっていいじゃないか」

食ったっていいじゃないか

ネタバレ
祖父の言葉として紹介した「自分の頭で考え……」は、実は私の敬愛する方の文章から拝借しました。この一文以外のすべては真実に基づき多少のアレンジと魚屋・布屋にご協力いただき構成しています。
「自分の頭で考え、自分の足で歩き、自分の手で作り、選び、自分の力でやってみることの必要は、今でも、どんなに進歩した未来でも同じことだ」(2002年ノーベル化学賞受賞者田中耕一さん小学校4年生時の作文より抜粋)


 

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