「東大は狭き門」というだろう。幅が狭い門のように、そこに入っていけるのは許されたごくわずか、ということを表しているわけだが、本当にそうなのだろうか?
去年、東大を目指す漫画「ドラゴン桜」は大ヒット、TVドラマにもなり、全国の受験者にいちるの望みを抱かせてくれた。実際、今年の志願者数も増加したと聞く。
それでも、東大は「狭き門」なのだろうか?というわけで、とりあえず行って計ってきました、門の幅。
(乙幡 啓子)
まずは赤門からが定石
東大にやって来た。やはり赤門から計るとしよう。将軍家の娘を嫁に迎えるために朱塗りにしたという由来の、この赤門。なら、乙幡家の娘はその幅を計って進ぜようではないか。
最初はひとりで都内の大学を計ってまわろうと思っていたのだが、守衛さんがそばにがっちりついていたり、言い訳とかいろいろ苦しいことになりそうなので、ニフティ古賀さんに同行をお願いした。古賀さんにカメラを持たせ、自分はメジャーをかっこよくピーッと引き出す。
赤門 : 3m44cm 脇の門 : 1m57cm
狭いのか広いのか。結局よくわからない。 なので東大の他の門も調べることにした。
下の写真は正門。赤門は正門ではないのである。
正門 : 5m34cm 脇の門 : 2m11cm
さすが、正門のほうが門戸が広い。多少試験の点数が足りなくても来いよ!受け入れるぜ!という、新庄のようなウェルカムな雰囲気。
赤門は東大の象徴だけあって、一見さんお断り的な雰囲気。
まだ他に「東大の狭き門」を探してみようと、大学敷地の裏手へまわる。どんづまりに池の端門というのがあった。
右の門 : 3m36cm 左の門 : 1m87cm
右のほうの、車の通れる門に限っては、赤門より8cm狭いことがわかった。
というわけで、東大に入るには、門戸の広い正門を狙え!ということだ。
他の大学はどうか
このままでは比較対象がなく、本当に「東大は狭き門なのか」が立証できない。
ということで、手近なところで慶応大学にも行ってみることにした。ここにはひとりで下調べに来ていたのだが、正門に守衛さんがどーんと立っているのだった。
しかも門がとても広い。この状況で、ひとりでメジャー持って横ばいしろというのか。メジャーを取り出さなくとも、足のサイズを利用して平均台を渡るみたいにちょこちょこ計ろうと思ったのだが、そのほうがもっとアレだ。
今日もどーんと守衛さんが、自分の仕事を堂々となさっていたので、正門はあきらめ、またも裏手にまわることにした。
東門がすごいことになっていた。いったいどこの幅を計ればいいんだ。
とは思ったが、まあ冷静に考えて、人の通るところを計ればいいんじゃん、と思い直し、しゃがみこむ。
東門 : 5m63cm
うん、東大よりは広いな。裏にまわってみても、その広さを実感する。
無意味な気がしてきたところへ・・・
当初、この調子で主要な大学を全部まわろうかという意気込みだった。で、狭い門が見つかったら「狭い!狭い!この学校こそ狭き門なのだ!」と、門に挟まって喜ぶ。それで終わり。そういう意図だった。
やってみてわかることは、「大学を数多くまわるのがすごく大変」「計っているうち無意味な気分が押し寄せてくるのを禁じえない」この2つだ。
襲ってきた虚無感。それをもてあましつつ、慶応から裏通りを経て駅へ向かおうとしたとき、ある建物が目に入る。
なんだかよくわからないが、その奥へ吸い寄せられていく。そしてふと振り返ると。
ここは、りっぱな「門」ではないか。
建物名には「建築会館」とあるが、こちらがわから見渡してみると飲食店・居酒屋が立ち並ぶビルだ。
本来は建築関係の学会が籍をおく建物で、シンポジウムなども開かれるような場所である。「居酒屋」のノボリに吸い寄せられている場合ではないのだ。
しかし、ここまでくると計らずにはいられまい。計ろう。門の幅を。
建築会館 : 163.8cm
東大よりも、慶応よりも、この居酒屋への道が「狭き門」だった。 確かに居酒屋には皆が行きたいものだが、大人数では入りきれない。金曜の夜など混んでいれば門前払いだ。そうか、ここがそうか。青い鳥はすぐそばにいた。
すみませんでした。
もともと「狭き門」という表現は新約聖書にあった。「狭き門より入れ」―それは困難な道だが、あえてそれを選べ、ということのようだ。それがいつのまにか「難関」を指すように転じていった。
今回は、より原点に近づくべく、門の幅を計ってまわってみた。結局よくわからないで終わるわけだが、この人生、いろいろな「門」があるので、固定観念を持たず突き進むことだ。
山口瞳氏の成人式への言葉の心境で終わりたいと思います。