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コネタ


コネタ1063
 
人の顔色をうかがう金魚がいる
群がる金魚たち。趣味は交尾です

友人の伊藤さん宅におじゃまするたびに、
「うちの金魚は人の表情がわかるのです」
と、毎回毎回自慢されるのですが、あまり本気にしていませんでした。
だってそうでしょう。

それでなくても、ザリガニが脱走したことを「天才的なジャンプ力でどこかへ消えた」と言い、ハムスターがどこかへ逃げたことを「夫婦ゲンカして家出したがいつ戻ってきてもいいようにドアを開けてある」あるいは「クワガタの一匹が私に気があるようだ。でもどれだったか今はわからないので教えられない」などと真顔で聞かされる身にもなって下さい。

ある日の夕飯時、伊藤さんが子どもたちを叱りながら水槽の横を通りすぎた瞬間でした。
「アレ?」
わらわらと泳ぐ金魚たちが、伊藤さんを避けるように進行方向を変えた気がしたのです。

「アレ?今の、なんだ?」

たしかに奇抜なことを言いはしますが、伊藤さんは根本的にウソのつけない人間だということを思い出しました。

(text by 土屋 遊

伊藤さんちの金魚情報

検証結果をご覧いただく前に、まずは伊藤さんちの金魚情報をお伝えします。
金魚たちの住居は杉並区伊藤宅。台所を見渡せる食器棚のうえに、集団で居候しています。このままですと永遠に家賃滞納でしょう。

おだやかな夕飯時

 

情報その1:金魚すくいで捕獲した勝利品である

"人の表情を区別できる"そんな才能をもった(とされている)カレらですが、特別なDNAを持つエリートではないとのことです。
町内会の縁日でゲットして教育することこそ、金魚飼育の醍醐味があると伊藤さんは言います。
金魚すくいではおなじみの、破れやすい『ポイ』ではなく、普通のアミですくいまくったのだと平然と発表して下さいました。三男坊(幼児)に持たせたそうです。ちなみに、
「ズルはこそこそするもので、堂々としていればズルではない」
と、聞いてもいないのに名言を残して下さいました。

 

情報その2:金魚の名前は『きんきん』である

どの金魚が"きんきん"なのかとたずねると、
「全員ですよっ!」
と怒ったようにおっしゃっていました。おそらく名前を聞かれてとっさに思いついたのでしょう。
"きんきんA"とか"きんきんB"などですか?……の問いには、しばし沈黙のあと、
「赤いきんきんと、白いきんきんです!」
と教えて下さいました。白いきんきんはご覧の通り一匹だけです。

 

情報その3:金魚はいっぱいいる

"赤いきんきん"がどうにも多すぎる気がしたので、数をたずねました。答え
「いっぱいですよ!」
数えようとすると動くので数えられないのは当たり前なのだそうです。その時はなぜか納得してしまいました。

検証スタート

それでは、誰も待っていないと思いますがお待たせしました。
普通の表情からはじめて、困った表情、泣きっ面、怒り顔、そして、笑った顔の順に検証していきましょう。


普通の表情。これが平常時リラックス顔です。
困った表情。歯が痛いのではありません。
泣いています。これはわざとらしいです。
怒り顔です。ええっと……

伊藤さんは腰を低くして、食器棚のかげに隠れてからいきなりニョキッと水槽に顔を出しました。
そんな、懲りに凝った演出法に、一瞬は興味を示した金魚軍団ですが、すぐにバラつきます。泣きっ面あたりからはまったく無視をしていました。たまに2、3匹が寄ってくるのですが、それでも「またやってるよ……」という感じであまりにもあっさりと引きあげてしまいます。私が妙な変化を感じたのは怒った表情のときです。ほんとうに避けているのでは……?「近よりたくない」という気持ちを全身であらわしているようにも見えてきました。気のせいでしょうか……。

気のせいなのかどうなのか。
それは次の検証『笑った顔』で明らかになりました。さて……。


固い笑顔です。

なるほどたしかに金魚が集まってきているようですが……。
エサをねだっているのか、上部へあがる金魚も多いようです。
直前の表情とは、あきらかに違う金魚たちの行動。何か秘密のエササインでもあるのではないかと、私は周辺を念入りにチェックしました。

 


いとおしい……

伊藤さんの表情も完全に勝ち誇り、余裕が出てきました。笑顔というよりニヤけ顔です。
「いつまでもやりますよ」
と意欲満々です。「これはもしや……」と私も焦りました。そういえば彼女の家では猫をはじめとして色々な生き物を飼っていました。カエルに亀……そのうちクワガタとザリガニ、鈴虫とハムスターは二世の誕生をも成功させていて、安産祈願にお参りにくる知人もいるほどです。

 


かわいくて仕方ないご様子です

検証中に金魚たちが応えてくれたのがうれしくて仕方ない様子の伊藤さん。いきなり笑顔がレベルアップしました。よろこびも絶好調のなか、奇声をあげると一瞬たじろぐ金魚ですがまたすぐに寄ってきます。
もしや飼育のプロでは……。
そういえば伊藤家では昔、ニワトリ二羽を飼っていたこともありました。家の中で主導権を握り、こたつの一番いい席をいつも陣取っていました。気分により人の目めがけて襲ってくるので、たしかおじいさまが肉屋に売っ……。

 


驚かす伊藤さん。こっちがおどろきました。多分ご近所の方々も驚いたと思います。
 

 

金魚は人の表情を見分けることができるのか

その結論は、もちろんまだわかりません。
でも、「ぜったいにない」とは私には言えなくなりました。
おそらく通常の飼育方法ではムリでしょうが、関心と愛情でもって(それが偏っていても)育てれば、どんな生き物でもなんらかのカタチでこたえてくれるのは確かだと思います。
そしてあなたも、

「金魚の視線を感じ、金魚語も少しだけわかる」

という伊藤さんのようになれる日が、いつかくるかもしれません。
多分ムリ。

その後の金魚たち(オマケ)

数日後に伊藤さん宅に訪問しました。
前回、期待通りの結果に気を良くした伊藤さんが雑誌を片手に待ちかまえていました。
「金魚って美人がすきなんですよ!」
仕方ないので最後までおつきあいください。


「ほうーら、私ですよー」
一気にむらがる金魚たち


よく見たら、伊藤さんではないようですね……


いっせいに引き返します。
「うふふ、私はここですわよ」


うーん……やっぱり金魚って面食いみたいね……

感謝を込めて

今回も全面的にご協力いただいた伊藤さん。
いつも取材費を払うどころか夕飯などをごちそうになっています。そういえば高校の時からごちそうになっている気がします。当時大食いだった私は、やさしいお母様に「今度からお米を持ってきなさい」と言われたような記憶がうっすら……。紅茶のティーバックも、いつもどこかにランダムに隠されていたっけ……。おかげさまで私は、紅茶のティーバック探しにかけては日本一ではないかという自負があります。

そんな伊藤さんご一家に、長年、そして日頃の感謝を込めて、今回のコネタはいつも彼女が強く要請してくる「顔面接写(ドアップ)撮影」に応えるカタチに仕上げました。
ただしご本人は、掲載されているネタのほとんどを見た(読んだ)ことがないそうです。理由は
「文字(とくに漢字)が多すぎるから」
そういうわけで、ご満足いただけたかどうかは一生分からないでしょうし、読んでもいないと思いますが、なにとぞ、今後ともよろしくお願いします。


「ほーれ、ママですよー」
金魚対応グッズが増えていました。
 

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