生まれつきのワイルドな性格からだろうか、よくCDに傷をつけてダメにしてしまう。 あの虹色にきらきら光る面に擦り傷をつけてしまい、それが音飛びの原因となってしまうのだ。
レコード全盛の時代には、中古で買ってきたLPの音飛びを、カッターナイフで溝を切りなおして修正したものだが、ディジタルメディアのCDにはそんな芸当は通じないだろうとあきらめていた。
ところがその傷が、なんと市販のハミガキ粉で消せるらしいという噂を耳にしたので、どんなものかと試してみた。
再生できないCDを再生させる、CD再生再生プロジェクトである。
(text by クドウ)
傷の数だけ優しくなれる
家の中でCDを扱うぶんには問題ないのだけれど、クルマのステレオでCDを聴くと、聴き終わったディスクをついつい助手席にそのまま放り投げたり、そのまま行方不明になったり、三年後にシートの隙間からあらわれたりと、まあとにかくCDにとっては過酷な環境だ。
だからボクは、買ってきたCDは自分用にCD-Rにコピーして外へ持ち出す。
それが余計に、CDの乱暴な扱いに拍車をかける。 コピー元のオリジナル盤があるから大丈夫だと。
そんな傷ついた、かわいそうなCDを癒してくれるのが、ハミガキ粉だというのだ。
研磨してもいいですか?
さて、このCDの傷をハミガキ粉で消すというのは、CDの材料として用いられているエステル結合樹脂であるポリカーボネイトに刻まれた傷をハミガキ粉に含有される研磨剤成分で磨いて消す、という21世紀にふさわしい技術だ。
作業工程としては、研磨剤の多いタバコのヤニ取り用ハミガキ粉で粗研磨したあと、研磨剤の少ないふつうのハミガキ粉で仕上げる、となるらしい。
ようするに、磨けば光るというわけだ。
こするのにてこずる
キュッキュッキュと心地よいミントの香りとともに作業を進めるのだが、やはり相手は弾丸をもはじくというポリカーボネイト。 なかなか傷は癒えない。 ひたすらこすり続ける。
研磨とは耐えること
ところが、いくら磨いても磨いても、どこまで磨けばいいのかが見えてこない。 なんというか、完成がどのくらいなのかわからない。 研磨剤による傷のせいか、ディスクが全体的に曇ってきている。
このままだと、中の銀色の膜が出るまで磨いてしまいそうなので、ここらで仕上げに取りかかることにする。
とても失敗したっぽい
仕上げてみたが、これはどうしたものだろう。 確かに大きな傷は消えたのだが、かわりに細かい磨き傷が残ってしまった。 失恋の心を癒すため、軽はずみな快楽にすがろうとするパリの裏路地の乙女のような仕上がりだ、まるで。
再生しているか再生してみる
すっかり光沢の無くなったCDが、果たして聴けるのだろうか。パソコンに挿入してみた。
ヒュイーンとドライブが回転する音がして、見事にオーディオCDとして認識された。 試しに再生してみると、ばっちり聴けるではないか。 音飛びもすっかりなくなった。
おお、素晴らしい。 ハミガキ粉がディジタルメディアの弱点を克服した瞬間である。
よかったよかった
無事に傷ついたCDが文字通り再生した。 めでたしめでたしだ。 傷を消すのは大変な苦労を伴うので、これからは大切に扱おう。
さて、今回の実験で研磨剤として使ったのはハミガキ粉だったが、もしかすると他の物を使っても傷を消すことができるのではないだろうか。
たとえば、酢みそ。
酢みそに込められた無限の可能性を探る
他にも聴けないCDがあるので、おつまみのイカと酢みそで研磨をしてみる。
手応えがない
イカも酢みそもにゅるにゅると滑るのみで、研磨の手応えがない。 全然磨けていない。 一口かじって、その断面で磨いてみてもダメだ。
よくできました、途中までは
当たり前のことですが、この実験をまねしてCDが聴けなくなってもボクもデイリーポータルZも責任は取れません。 特に酢みそに関しては。 磨き方に失敗した場合、音飛びどころか全くCDが聴けなくなる可能性があるので十分に注意してください。 特に 酢みそに関しては。