刺身などを盛り付ける船盛りの器を人からもらった。うれしい。
うれしさのあまり、前回担当の記事では刺身に限らずいろいろなメニューを盛り付けてみて、なんだか楽しかった。
しかし、船盛りの器も原点は船である。器であることにとらわれ過ぎて、すっかり忘れていた。
船かつ器である船盛り。カレーを盛った船盛りが川の向こう岸からずんずんやってきたら楽しいですよね。そういうわけでやってみました。
(text by 小野 法師丸)
船盛りの根源に立ち返って
前回担当したコネタ記事「船盛りディナーで一週間」で、さまざまなメニューを強引に船盛りにしてみた。
最初はおもしろいと思ったが、だんだん嫌になっていった一週間。試みを通して見えてきたのは、やっぱり普通の器で食べたいという意外な結論だったのだが、そう言えば船盛りの容器って、船でもあるじゃないか。
当たり前と言えばその通りだが、いろいろ盛り付けて盲点になっていたのも事実。大事なことはいつだって見失いがちなのだ。
試しに浴槽に浮かべてみると、しっかりと浮く。名実ともに立派な船だ。
しかし、問題なのは推進力。このままでは水に浮かんでいるだけで、前に進むことはない。やはりしっかりと前進してこそ、本格的な船と言えるのではないだろうか。
そこで導入したのが、水中モーターだ。
もっとおもしろい感じになるかと思っていたのだが、モーターをつけたらなんだか急にかっこよくなってしまった。きみはもうただの器じゃない、立派な船だ。
くだらないことを思いついたときだけ急にアウトドア派になれる自分、この船盛り号にもちゃんと仕事をさせたい。
船かつ器である船盛り号。そのポテンシャルを試すため、川にやってきた。
今回は、「川の向こう岸にいる人にカレーライスを届ける」というミッションを設定してみた。船であり器であるという船盛り号の特性をよく確かめることのできる課題だと思う。
さあ、水中モーターを作動させて進水させてみよう。
……予想していたよりスピードは遅いが、前に進んでいくことは確かだ。よし、これならいけるのではないだろうか。そういうわけでカレーを盛りつけようと思うのだが、実験的な試みゆえ、転覆の恐れがあるのは否めない。
食べ物を無駄にするのは本意ではないし、油っこいカレーを川に流すのもまずいだろう。21世紀はバカをやるにも環境に配慮するべき時代だと思う。
そうしたことに配慮して、今回は園芸用の土と消石灰を盛り付けて、カレーライスをシミュレーションすることとした。思っていたよりカレーっぽさが出ているように感じたのだがいかがだろうか。
さて、準備は整った。船盛りカレー号、出発である。
おお、順調に進んでいくではないか。水面の波に景色が溶けて見えるのが無駄に美しい。このまま無事に向こう岸までカレーを届けてくれ、船盛り号!
突き進む船盛り号を見守っていたのだが、ちょっとした風にあおられでバランスを崩してしまったのか、ぐらっとした次の瞬間、ずぶずぶと沈んでしまった。ああ、なんてことだ。
無残に沈没した船盛り号。やはり荷が重かったか。ただ、本当のカレーを盛らないでよかった。リスクヘッジは功を奏したと言える
料理を盛り付けることに特化した船である船盛りの器。船本来の性能を期待するのは難しかったのか。しかし、ここでたやすくあきらめたくはない。途中までは順調だったのだ、なんとかならないだろうか。
本当に向こう岸でカレーを待っている人がいるわけではない。今後もそんな必要はありそうもない。だからこそ、ここは一生懸命さを忘れたくない。文のつながり方が強引だが、そういうことなのだ。
距離が短いなら届くのではないか。そうした見通しを立て、川幅がもう少し狭いところまで移動して再びチャレンジしてみる。
よしよし、波がおだやかなタイミングを選んだこともあって、船はおごそかに進んでいく。いいぞ、いいぞ。
どうでもいい実験に連れ出すのが大変だった妻も、こうして見るとなんだか楽しそうだ。などと、のん気に構えている場合ではない。船が岸に到着するのを見届けるために、写真奥に見える橋を渡って向こう岸に行かなくてはならないのだ。
カメラが一台しかないのに、それを忘れて駆け出してしまった。テンションが高ぶるのはいいのだが、あわてすぎである。改めてカメラを受け取り、橋を駆け抜けて反対の岸に向かう。
無事たどり着いた船盛りカレー号。よくやったぞ。
ここまでいろいろあったわけだが、ミッションは成功と言っていいだろう。ひとつ心配なのは、この記事を読んでいらっしゃる方が私の喜びに共感してくれているかどうかということだけだ。
できることはできる
船盛りの器は物を運搬する船として機能するのか。そうした素朴な疑問を検証するために行った今回の試み。
答えはイエスだ。自信をもってそう言える。
別に誰にも求められていない情報であることはわかっているのに、なぜだか満足感があるのは自分でも不思議な気がします。