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コネタ


コネタ1022
 
アツアツ弁当を作りたい

弁当、特に駅弁というと、旅で食べるものだけにハレの感覚がないだろうか?それにさらにスペシャル感を増す駅弁を最近みかける。箱から飛び出たヒモを引っ張るとお弁当が温まるものだ。ほどよく蒸され、電車の中だろうと観光地だろうとアッツアツ。以前からある「お燗が出来るカップ酒」と同じ理屈で出来てるらしい。

「冷たい弁当」。なんかもう字ヅラだけでイヤだ。「冷や飯食い」みたいで。ああ、もし会社や学校でヒモをひいてアツアツ弁当!それが自由に出来たなら‥。

(text by 大坪 ケムタ

アツアツの鍵は生石灰なのです

さてあのアツアツ弁当をどうやって作ればいいのか?そんな時にはトリッキーな料理の天才、あいつに聞けばいいじゃないか。それはもちろん・・


ミスター味っ子ですよ。

ビッグ錠作品に次ぐ、珍料理漫画界の獅子といえば寺沢大介作『ミスター味っ子』。数々の「本当に美味いの?」と思わせる珍料理の中に、アツアツ弁当も出てきてるのだ!

4〜5巻の駅弁対決で登場するのが、串を刺すだけで温かくなる幕の内弁当。2段になってる弁当の下の段に串を刺すと突然熱を発し、上段のお弁当部分まで温かくなる。問題のブラックボックス、下段に入っているのは「水に触れると熱を出す白い粉=生石灰」。

漫画に書かれてない化学的な話でいえば、生石灰つまり酸化カルシウム(CaO)が水に反応して水酸化カルシウム(Ca(OH)2。消石灰ともいう)になる際に発熱を起こすというもの。化学反応なんて高校以来だからこれ以上の詳しい事はわかりません。ひー。

なるほど、理屈は(なんとなく)分かった。では実践&調査!ということで、まずはサンプルとして東京駅で実際のアツアツ駅弁を買ってきました。


なぜか肉々しい2種しか無かった。あとお燗酒。
うまそー。でも今回の主役は君らではない。

結構メジャーになってきた感があるアツアツ駅弁、しかし東京駅で探してみるも意外とない。結局地方駅弁コーナーでみつけた2種類だけ。あと仕組みは弁当と同じのお燗機能付き・ふぐひれ酒。

先日某デパートでやってた駅弁大会は結構あったという話なんだけどなァ‥。ともかく、今回の主役である底のアツアツ部分を御開帳。


発熱ユニットのフタを開くと‥
白く細かい石灰と水パック。

TKとYOSHIKIが合体!?とか思わせる「ユニット」という横文字の割には中身はシンプルな作り。ヒモを引っ張れば穴が空き、水が生石灰にかかって発熱、というわけだ。

ヒモを引っ張ると‥パシュー! ひぃ、煙がー!! 白煙がうっすら、しかし勢いよく立ち上り、発熱した石灰の部分が部分によって茶色に焦げていく。

見た目たいした変化はないだけにウッカリ軽く触ってしまいそうになるが、温度計を突っ込むと赤い線がグーンと伸びていく。火をたてることなく煙をたてる様は「純白(イノセント)の石焼き」という風情。直接コレでビビンバとかやって食べたら大変なことになるけど。


煙だー!レンズがー!
実際は110度近くまで上がりました

30分くらいは80度近くの高熱が持続し、それを過ぎても1時間後も50度弱とかなりの保温力。熱もさながら、その持続性は驚いた。

むかしクラスに一人は「温かいからさー」と昼の弁当にデカく黒い魔法瓶素材のジャー(て最近見ませんね)を持ってくるヤツがいたが、コレが毎回使えるのならレンジ入らずお湯入らず。毎日の弁当ライフの革命児だ!

白い粉を仕込んでアツアツ弁当実践編

翌日お昼。前日に具材を買い込み朝8時から仕込んで、午前の仕事を終えた後さっそくランチに公園にやってきました。気分はOL。


散歩中のおじいちゃんじゃないよ

弁当は一体何にするか?いろいろ考えた結果、「石灰で温めてジリジリ焼いて食ったら結構感動すんじゃねぇ?」とあくまでも成功をイメージしたうえで最終的に決定したのは、ホイル焼き。


アウトドア気分で。具材は鮭・ブロッコリー・しめじを用意しました。

ま、気分的にちょっと写真を大きくしてみたものの、今回は弁当は主役じゃない。その底にあるアツアツユニットこそが主役なのだ。公園に着く10分前、「お手製アツアツユニット」の制作を開始した。

アツアツユニットを制作するにあたって必要なのは生石灰こと酸化カルシウム。『ミスター味っ子』によると、「生石灰はライン引きに使うくらいだから、安くって手軽で弁当の保温にはぴったりなんだ!」とあるけれど、正確にはライン引きに使われるのは、水で反応させた後の消石灰=水酸化カルシウム。

味っ子、破れたり!と喜んでも仕方がない。代用品をみつけなければ‥と見つけたのが食品などの湿気取りに使われる乾燥剤。これの成分がまんま酸化カルシウムということで代用がきく。


核となる生石灰はコレで代用。
裏の成分表を読めばこの通り。

よっしゃ、じゃああとは弁当箱の底に詰めるだけだ!とさっそく作業を始めてみるも、客観的に見てその光景、あまりよろしくない。


白い粉をまとめる猫背の男
末端価格15円程度だけどそうは見えない。

自分でも人相がいい方とは思ってないけれど、隣の部屋を覗いてコレだったら通報されても仕方がない‥。ともかくこういう過程を通して作られた念願のお手製アツアツユニット、さっそく水を注入!

どばしゃー。水をかけるとぶすぶすぶすッ!と爆ぜる音がする。すかさずホイルを載せて具材を包みこませる。徐々に熱がホイルを通して鮭やしめじをヒートしていく‥と思いたい。

その兆候は意外にも早く現れた。開始10分、鮭の上に置いていたバターがトロけだし、赤いスロープを今にも滑り落ちんとしている。おおおッ、この調子だと30分後くらいにはいい感じで食えんじゃねぇ??


外のせいで煙にはヤラれず。
焼く前に比べて溶けかけてるのが分かるだろうか?

そして約30分後。バターは完全に固形の形を失っている。ブロッコリーも全体が湿ってイイ感じ醸しだしてるよ!ではさっそくバクッ。


石灰焼ブロッコリー、いただきまーす。

‥プッ、プップッ!ぜんぜん中まで熱が通ってないよ!草食ってるかと思った!他の具材も推して知るべし。メインディッシュの鮭は「ぬる〜い鍋につけたなま暖かさ」。しめじが辛うじてやわらかさとバター味が若干マッチしてたくらいで。う〜ん‥。

やはり石灰では「温める」は出来ても「焼く」までは出来なかった。しかし、容器の裏を見てみると‥


石灰熱で溶けかかってました。

うーむ、自家製では熱さをコントロールするのが難しいみたいだ。やっぱり市販の弁当に入ってるのは研究されてるんだなぁ。断熱材や石灰量、場所などを注意すればもう少し効果的になったかもしれない。どっちにしろホイル焼きはダメっぽいけど。

ホイル焼き(生)は近所の猫にあげました。

アツアツの夢、いまだ果てず。

「まぁ熱は出たし、やり方次第じゃ結構使えるかも?」という気もしないでもないんですが、実際は水入れる時に酸化した石灰が飛んでカメラが白くなるわ、一応注意としてゴム手袋にマスク着用で準備しなくちゃと何かと手間もかかる。

何より石灰自体が口に入るとよろしくないので、ホイル一枚越しに食べ物が、というのは正直言って危険なのです。実際弁当は石灰ユニットから食事が入った皿の間にスペースがあり、浮いた感じになってるし。

でもその危険性を排除さえすれば「発熱部交換可能!ア・ツ・ア・ツ弁当キット」とか作れそうです。そしたら弁当どころか、会社で釜揚げうどんとか、学校でミニ石狩鍋くらい出来たりしないかなぁ。

嗚呼、アツアツの夢果てず。


 

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