時を超え、世代を超えて歌い継がれる名曲の数々。そんな名曲たちの中には実在の場所を題名とする歌がある。今回はそんな歌の舞台となった場所に出向き、その場所でその歌を歌いたいと思う。選んだ歌は「矢切の渡し」。柴又駅から徒歩で10分程度、都内に唯一残る渡し船を舞台とした名曲である。
(text by 住 正徳)
3番まである歌詞を要約すると……、 柴又で悲しい噂を立てられた恋人同士が親に背いて恋を貫き、矢切の渡しから見知らぬ土地へと駆け落ちする、という内容だった。牧歌的なメロディとは裏腹に、割と深刻な恋の唄なのだ。
親のこころに背いちゃった2人は、一体どんな気持ちで渡し船に揺られていたのか。その辺りの心情を想像しながら、矢切の渡しで「矢切の渡し」を歌いたい。
東京都柴又から江戸川をまたいで千葉県松戸市矢切まで、約100メートルほどを渡す矢切の渡し。
柴又側から船に乗り松戸側に到着するまでの間、カラオケで「矢切の渡し」を歌おうと考えていたのだが、残念ながら訪れた日は強風の為、運休だった。
「やってる日はあっち側に旗が上がるんだけどな」 と、渡し場まで自転車で乗り付けていたおじさんが教えてくれた。
「まあ、向こうに行っても畑しかないし、なんて事ないよ」
今までの生活を捨て、一大決心のもと矢切まで渡る。そんな2人の切羽詰まった気持ちを台無しにするおじさんの発言。
まあ、そうですよね。ちょっと対岸に渡るだけですもんね。 おじさんに話を合わせつつ、カラオケの準備をすすめる。
船に乗って歌う事が出来ないので、東京側の渡し場で歌う事に。
購入したカセットテープのオリジナルカラオケ部分を頭出しする。マイクをラジカセにつなぎ、歌の準備は整った。
チャラ〜、チャラチャンチャンチャン〜 矢切の渡しに「矢切の渡し」のイントロが流れる。
イントロの時間は約30秒。
それでは、心をこめて歌います。
(以下、ナレーション風に読んでください)
連れて逃げてと言われたら ついて来いよと男意気 親を裏切り恋に生きる そんな2人の旅立ちです
さあ、続いて2番に参りましょう。
見捨てるなんておこがましい むしろ俺を捨てるなよ 川の向こうには夢がある そんな2人が揺られてます
次は最後の3番です。
ラジカセのボリュームがマックスだったので、観光客が集まり始めてしまった。
「あの人、いつもあそこで歌ってるの?」
そんな声が聞こえた。
以上。 ご清聴、ありがとうございました。
今回は渡し船に乗る事が出来ず残念でしたが、少しは駆け落ちする2人の気分を味わえた事と思います。
次回、機会がありましたら襟裳岬で「襟裳岬」を歌って、本当に襟裳の春は何もないの春なのか、感じてきたいと思います。