年末の大掃除は好きな行事のひとつだ。
一年の汚れを落として新たな年を迎える、その厳かな日本の伝統が好きだ。
たとえおおざっぱでも、「やった」という気になればいい。
もしもほかの364日掃除をしなかったとしても、だ。
昨年末の大掃除、すっかり忘れていた場所がある。 冷蔵庫だ。
どうも臭うな、と思っていたら、冷蔵庫の片隅で年越しをした玉ネギに遭遇した。 板と壁にはさまれ、無惨な最期だった。
みんなの冷蔵庫はどうだろうか。
冷蔵庫の中で、除夜の鐘を聞かせてしまったロンリーな食品どもはありましたでしょうか?
(text by 土屋 遊)
気になるとなりの冷蔵庫。
かつて祖父母の家の物置で、いったいなんなのかさっぱりわからなくなっている缶詰を見つけたことがある。 全面的にサビていて、解読不可能だった。 しかも缶詰でありながら、膨張していて、少しでも動かすと爆発するんじゃないか本気で心配したものだ。
私はそのまま後ろに下がり、そっーと物置の扉をしめた。 爆弾処理班の気持ちがちょっとだけわかった気がした。
世の中のじいさんばあさんのほとんどがそうであるように、物を大切にしすぎる明治生まれの祖父だった。 あの缶詰、戦時中のものじゃねーかな。 と、今でも時々思い出しては想像する。
そんな危険きわまりない食品が、みんなの冷蔵庫にあるかどうか、ご披露していただきました。
世界一縦に長いコネタになったかもしれません。 それでは、若い順にご紹介します。さあ、冷蔵庫内の最年長者、見せつけていただきましょう。
五十嵐朝日所有 自分の目を疑い、次にカレンダーの年号を確認しました。 「賞味期限の切れたもの」と言うお題に対していきなりの反則ワザです。 そういえば彼は中学の時から、階段の踊り場プロレスで、いつも友人を突き落とすという反則ワザをシャーシャーとやってのけていましたので、このようにまだ期限切れでないものをシャーシャーと送りつけてくることが出来るわけです。確認したところ、「え?今年って2006年?」と反応。彼は一年未来を行っていることとし、公開に踏みきりました。
bobojoさん所有 ご覧いただければイヤでもおわかりでしょう。熟れた柿です。 掴めないぐらいグズグズになっていたとのことです。握力の強い方ですと大変なことになりますので、おタマですくうのが正しい熟れた柿の移動方法だと思います。 この柿を拝見して思いめぐらせたのですが、柿合戦するとしたら固い柿と熟柿とではどちらが有効か。ひどく悩み友人に相談したくらいです。
豊崎エコさん所有 もめん豆腐さんに大変失礼ながら、左上の「魚のような物」ばかりに目がいってしまいました。 Bothriolepis(ボスリオレピス)という原始的な魚のフィギアだそうです。4億850万年に大繁栄したとのことで、賞味期限企画にふさわしい、シャレの効いた憎い演出です。 もしもこちらが本物であればグランプリまちがいなしでしたね。 豊崎エコさんの個人サイトはこちら
がぶりさん所有 まあ!おいしそうな中華デザート! と思いましたが、 「高山名産の牛肉と黒豆を煮込んだおつまみのようなもの」 だそうです。 ご本人は白い部分は油だと思いますと推理していらっしゃいました。さすがです。油以外の何ものでもありません。 拝見してからというもの、 「賞味期限切れアート」 というジャンルの芸術がないのはおかしいな、と思いつづけています。
聖さん所有 98年物の調味料もあったそうですが、ビジュアル志向の聖さんはこちらを選んでくださいました。 さすが今流行のPolka Dots、水玉模様のアクセントが効いています。 そういえば我が家の風呂にも、グダグダにふやけたユズがしばらく放置されていました。あいにく流行模様には至らず、残念です。 聖さんの個人サイトはこちら
メガネ女史Nさん所有 調理した残りを、タッパーに入れて保存していた高菜。 怖くて開けられなかったそうですが、この撮影のために勇気を出されたとのこと。鼻を突く臭いは、小学生時代に花瓶の水替えをした時のソレと同じだったと語っていただきました。なつかしさでいっぱいの高菜たちを今どうするか検討中だそうです。 彼女は以前「カラダで、こたえる」でもご協力いただいたNさん。 著書第二弾「空とカメラと緑と私」も発売中です。腐敗した高菜とは比べ物にならない出来ですよ。
Ukiさん所有 代々伝わる水戸人お母様の知恵をこっそり教えていただきました。 納豆は冷凍しても、解凍後にはおいしく食せるとのこと。こちらも賞味期限が切れる前に、冷凍していたそうです。 さすがこのガビガビ加減が甘納豆のようで実に美味しそうです。 ちなみに私は納豆は混ぜて食べない、こだわりのストレート派です。
土屋遊所有 弁解をさせていただけば、現在小さい冷蔵庫であるため、大物を発掘することはできませんでした。 期限は推定の長ネギ。もしかしたらもう少し古いかな?と思いますがまあこんなトコでしょう。 肉眼では、これが葱の進化系だとはとても見抜けませんので、「高級高麗人参」として高級な人への贈答品にしようと思います。
コレステロール伊藤さん所有 伊藤さんが冷蔵庫からなにかを取り出すたびに、「それ、賞味期限切れてない?切れてない?」と必ず確認することにしています。 みなの期待を一身に集めた伊藤さんでしたが、あっさりと一年前のブツを引っ張り出してきました。川崎大師のお土産、くず餅の蜜。 昨年の正月に頂いてから、冷蔵庫の中で迷子になっていたとのこと。 そういえばご本人も、人生と高円寺商店街でよく迷子になります。 超一部で超要望があったため顔面付きでの掲載になりましたこと、ご了承ください。
shiuさん所有 乾燥している食材なので「まだ食べられのでは」と思い、冷蔵庫で眠らせていたそうです。 こちらを拝見し、慌ててウチの干し椎茸をチェックしました。人間の知恵「乾物」も、賞味期限には勝てないとみました。 shiuさんのお宅にはレトロなMACが何台もあり、自分のいるスペースがありません。 早めの処分はポルチーニ茸よりも、MACではないでしょうか。 shiuさんの個人サイトはこちら
やっぱ祐木奈江さん所有 賞味期限ではなくて、とっくに使用期限の切れた検査薬。 大事に保管しているのは何かの「おまじない」でしょうか。ご本人の性格上、ただ捨てるのを忘れていたと推測されます。 ただし、女性にとっては、ナミダに次いでかなり強力な武器になることだけは確かなチェッ○ワン。 水戸黄門でいうところの印籠でしょうか。ぜんぜんちがいます。
みなぼーさん所有 あたりまえですが賞味期限ってあるんですね、レトルト食品。 冷蔵庫の中にいれておくのは普通の行為ですか? やはりビジュアル的にまったく変化ナシというのはつい食べてしまいそうです。 これは罪ですね。黒木瞳さんや由美かおるさんもまったく変わらないのであれも罪だと思います。
ベアッキさん所有 ガム・アメ・化粧品と、「アセロラ」にハマりまくっていたという当時のベアッキさん。旅行中の沖縄で、この飲料を発見したのが2002年で、興奮買いしたとのこと。家に戻り「元気がなくなった時に飲もう……」と大切にとっておいたものの、すっかり忘れていたそうです。 再会のきっかけを提供した私に、感謝の意を表明してくださいましたが、「飲んで平気でしょうか?」と聞かれても……。「平気です」以外に、なにがありましょうか。
seaさん所有 イカの塩辛マニアと言われる私でも、こんなビンテージ塩辛はいまだかつて見たことがありません。感謝します。 フタのサビ具合がとってもオシャレですね。 酒飲みはチビチビと飲るのでしょうが、我が家ではイカの塩辛は三時のおやつに瓶ごと、ドライブのお供に瓶ごと、一気食いがモットー。 死ぬまでに一度くらいはこのような熟成塩辛にも挑戦してみたいです。
まあしさん所有 某イタリアンレストランの自家製ドレッシング。 大事にしすぎてこんなに古くなってしまったそうですが、食べられないとはわかっていても、もったいなくて捨てられないとのこと。 ではどうするか。私ならそうですね、栄養価が高そうですし、顔パックに使いたいです。
園田ちびさん所有 わりと新しいです。と、遠慮がちに送っていただきましたが、6年越しの期限切れにはふさわしくないほど美しいお写真でした。 個展が開けるのではないでしょうか。その際にはぜひ発起人としてマネージメントさせていただきます。 ご自身は、あるのかないのか多分ない、次回賞味期限切れ募集にそなえて、このブツを冷蔵庫に戻しておいたそうです。なかなかのチャレンジャーとお見受けいたしました。
この年のできごと ノストラダムスが予言した世界滅亡の月。その翌月に郷ひろみが渋谷でゲリラライブ。 宇多田ヒカルや『だんご3兄弟』の記録的大ヒット。 個人的には、町内が一丸となりファイナルファンタジーVIIIに燃えていたことが記憶に残る。
ノノ子さん所有 子どもがいると、万が一のために薬は常備しておくもの。 こちらも冷蔵庫でじっと出番を待つ吐き気止めのお薬、しかも座薬です。 お子さんだからいいようなものの、これがもし大人だったら、やっぱり7年前の座薬を使用するのはかなり勇気がいるのではないでしょうか。私はイヤです。
この年のできごと ダイアナ元英皇太子妃、マザー・テレサ死去。 映画「もののけ姫」「タイタニック」大ヒット。 個人的にはホームページ開設。ポケモンTVアニメ開始直後にモンスターの名前を暗記することに命をかけた一年だった。
ピコロさん所有 冷蔵庫の野菜室で9年間、虎視眈々と発掘してくれる日を待ちわびていた「お酢」だそうです。 ロゴやフォントまで一気にレトロ感を醸し出していることに注目すできでしょう。 酸味は劣化しているのかどうなのか、飲んだらカラダがやわらかくなるのか。その辺りもご報告いただきたいです。
この年のできごと 徳仁親王、雅子さまとご結婚。四谷までご成婚パレードを見に行き、肩車から派手に落人。生死をさまよう。大物フランク・ザッパと安部公房の死去。 一歳になった息子が、ヤキモチを焼いた飼い犬ダイナマイトに頭ごとガブリとヤられる。祖母が放った第一声「まあ……かわいそうでやれん(たまらない)」は、怒られてイジけた犬に対して向けられた。
土屋母所有 読者の中には、もしやまだ生まれていない方もいらっしゃるかもしれません。孫より犬の土屋母が、冷凍庫に13年もあたため(いや冷やし)ていた「お茶の葉」が最古の品となりました。 「ウチにあったって書かないでよ」と母に念を押されて公開許可を得ましたが、じゃあ入手先はどうすればいいのかと聞くと「リサイクルショップで買ったって言えば良いんじゃない?」と脅迫されました。私とてウソは書けません。 さて。 いかにも高級であると言いたげな小さな茶筒のお茶の葉。その後飲んでみたそうですが、「味は良かった」と感想をもらいました。たぶん、ウソだと思います。
賞味期限ブツへの愛
となりの冷蔵庫はいかがだったろう。 思いのほかひどかった気もするし、思いのほかそうでもなかった気もする今回のコネタ。
ちょうど賞味期限ブツを収集していた時期に、関連する新聞記事を読んだ。食品を食べずに捨てる理由はこの期限切れ(58.5%)だそうだ。 見た目やにおいの五感をフルに生かして大切にしましょうよ、という内容だった。
しかしどうだろう。 見た目もにおいもステキなはずはなかろうに、画像やブツそのものを提供して下さった皆さんのほとんどから、 「食べる・なんとなく・観賞する」 などの理由からこのあとも手元に残しておくのだと報告を受けた。
「愛」というには大げさだが、これは長年連れ添ったモノに対する「愛着」ではないのか。 いややっぱり、どう考えてもズボラなだけだよな。