この前ハイトルクルーターというものを手に入れたのだが、ここしばらく使っていない。
つれづれに、ふとその外装箱を見ると、用途がいろいろ書いてある中に「ガラス彫刻」という項目がある。
ガラス彫刻・・・まず手っ取り早いのは「グラスアート」ってやつだろう。コップやグラスに絵を彫ったりするあれだ。絵が すりガラスとなって浮き出て、たいへん美しいものである。ブドウの絵とかね。
でもうちにはそんな、ペディグリーチャムのCMのような高級なグラスはない。あるのはこんなのだ。こんなのに、何彫るか。
(乙幡 啓子)
「こんなの」というグラスは、これだ。実はこれ、リサイクルしているものなのだが、元は何かおわかりだろうか。
実はこれ、私の好きな「三島食品」のふりかけの空き瓶なのである。皆さんもスーパーで一度はお目にかかったことがあるだろう。
この空き瓶が、コップにするのに実にちょうどいいのだ。口をつけるところは特に厚く丸みを帯びており、全体の厚さも十分である。
使い終わったらコップにどうぞ、という無言のホスピタリティを感じる、いや、感じて「いた」。過去形だ。というのは、最近パッケージが変更になっていたらしいのだ。
しばらく買ってない間に、こんな斬新な感じになっていたとは。ゴミ分別のため、キャップ部をアルミからプラスチックに替え、再生可能にしたのだろう。その際にこのようなモデルチェンジがあり、よって彼ら(空き瓶)の家庭内(特に私んち)での再就職の道がなくなってしまった。
ではあるが、別に責めているわけではない。もうあのグラスは増えないのだなあと思うとちょっとさびしくはあるが、本題に入ろう。
もともとは「瀬戸風味」の瓶だったこいつらに、本来の姿を思い出させるべく、その体に消えない刻印を記してやろうと思うのである。何でだ?
パッケージを剥いで、グラスの中に両面テープで貼る。それを目安に彫っていく。
ガラスに厚みがあるので、常に絵を真上90度から見ないと出来上がりがずれてしまうのだが、彫るときグラスを動かしながらだと、その見極めが難しいのだった。
水に濡らした布巾でカスをぬぐいながら彫る。夜の部屋に歯医者音が響く。
その後も、ギャンギャン彫っていく。最初のうちは、電動歯ブラシでよく失敗するように、先っちょが十分回っているにもかかわらず無駄にいろいろ動かしてしまい、彫りにくかった。
ある程度腕を固定することを覚えたら、彫り取れて行くその感触が快感になった。ハイトルクルーター・ドランカーでなければいいが。
意外と簡単に?できた。もっとぐちゃぐちゃな仕上がりになるかと思いきや。作業自体は楽しく、できあがりにも満足しているが、「だから何だ?」という思いも少なからずあるのだった。