東武東上線沿線に住む友人から、以下のようなお便りをいただいた。
>東京に大仏があるのを知ってる? >その名も東京大仏。 >練馬・板橋地区に長く住んでいたけれど、 >下赤塚に越してくるまでは、存在を全く >知らなかった。 >しかも日本で3番目にでかいんだと。
私も東京に住んで15年になるが、まったくそんな大仏の存在は知らなかった。有名な奈良や鎌倉の大仏、それに次ぐものとは?果たして本当にそれは「大仏」なのか?期待は高まる。
(乙幡 啓子)
ただ、交通の便は、はっきり言って悪い。 東武東上線下赤塚から徒歩25分、
都営三田線西高島平から徒歩15分という、実に中途半端な場所に鎮座しているという。 暖かな小春日和の一日、紹介してくれた友人親子に同行してもらい、大仏を目指した。
商店街に入って早くも、「大仏サブレー」なるお土産物を発見。そのような名前を持ちながらも、「フランス製菓」という洋菓子店で売っている。1枚100円なり。お姿・お味は後ほど。しかし後にも先にも、大仏がらみのお土産を商店街で見つけることはなかった。見落としてたらすみません。
商店街は大仏からは遠いせいか、観光臭はただよっていない。しかし商店のシャッターのいたるところに、同一図柄の微笑む大仏が見られる。
商店街を抜け、大通りへ。子供の歩く早さで、ゆっくり歩く。古いものがそのまま残っていたり、でもやはり東京を感じたり、いろいろ味わいのある道程。そして、大仏に近づきつつあることも随所で感じる。
写真を見返すと、ところどころに建つマンションを除けば、もうほとんど私の故郷、北関東という趣だ。
そしていつのまにか坂道の頂上に来ていた。開けた視界のその先に・・・。
チリチリ頭が見える。あそこか!道程をそれなりに楽しんでいたおかげで、早く着いた気がする。
ここは正式には「赤塚山 乗蓮寺」といい、600年ほど前に建立されたとある。以来、将軍吉宗が鷹狩りのときに雨宿りしたりいろいろあって、昭和46年からの移転工事のとき、天災・戦災などの無縁仏の供養や恒久平和を祈願して、青銅製の東京大仏ができたということだ。
さっそく寺へ入ってみよう。
門をくぐりぬけるとすぐ右に、大仏が鎮座ましましている。あまりに普通に大仏がそこにあるので、びっくり仰天である。
最初に目にしたときの4歳男子の感想は、
「ありえない」
だった。 確かに、東京板橋区で見る光景ではないと思う。4歳児に賛成の意見だ。私はもうちょっと、「おらが村の大仏(失礼)」といおうか、たいしたことない仏像をなんとか名所に仕立てあげた感じを想像していたが、とんでもなかった。10円の浄財を賽銭箱に収め、陳謝いたした。
ぐるっと大仏を一回り。中に入れるようになっているらしいが、立ち入り禁止だった。寺の境内は、地方のお寺と変わらない雰囲気。ちょっとした観光地に来た気分だ。
さて、小休止に大仏サブレーを取り出し、子供に与える。もう、全面に大仏をフィーチャリングした一品である。砂糖がまぶしてあり、味はちょっと甘めで、いかにも洋菓子屋さんのサブレーという感じ。大きいのでお腹いっぱいになる。型抜きができそうなので、お子様にどうぞ。
寺の中で飼っていると思われる大型犬が、とととっと、サブレーに向かってまっすぐやってきた。しかしふいっと脇をそれ、茂みの向こうに行ったので何事かと思っていると、用を足し始めた。
お前は仏に仕える犬じゃないのか。いきなり目の前で何をするんだ。そして用を足し終わるや、またサブレーのもとにまっすぐやってきた。食事の前にまずは用足しか、なるほど。食べかけのを差し出すと、一口で食べてとととっと小屋にまっすぐ入っていった。
大仏のある街。しかしここは東京都、しかも区部であり、周辺は普通の住宅地になっている。そこへきて、大仏のある街。どんな気持ちで毎日過ごしているのか。ちゃんと毎日そちらの方向に頭を向けて寝るのか。気になる。
寺社を訪ねるのは、いいものだ。気分が落ち着く。池袋からつごう30分ほど離れたところであるにもかかわらず、静けさと寺独特のたたずまい、しかも大仏のある風景に、気持ちを開放して、いや開放しすぎて、体がダララーッとスライム状になったような気分だった。
途中に出てきた食堂「ライトアメニテー」だが、直訳すると、「軽い心地よさ」。その名の通り、押し付けがましくない観光地。今ならちょっとした紅葉もあり。混雑もなし。しかも大仏あり。どうですか。