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コネタ


コネタ192
 
いつバスが来るのかわからないバス停

 ある晴れた週末、沖縄本島の北部に向かって車を走らせていると、なんだかとてもシンプルなバス停を見つけた。バス停ってこんなにつるんとしたものだったっけ。最近あまりバスを利用していなかったので注意して見たこともなかったのだが、それにしてもなにか足りなくないか。あ、そうだ、時刻表がないのだ。(安藤 昌教

シンプルイズベスト

 シンプルなバス停の裏側へまわってみた。本来なら時刻表なりせめてバスの到着頻度なりが明記されているべき場所なのだがそこはシンプルバス停、裏側に貼られていたのはすでに終わったイベントの告知広告のみだった。バス停が位置するのは普通の県道で人通りも車通りもちゃんとあるし、路線からしてシャトルバスとかではなく普通の交通機関のバスだ。


裏面にも時刻表はない。貼られているのはイベントの案内広告。しかもずいぶん前に終わったやつ。
向かいのバス停にもやはり時刻表はない

しかし人間とは不思議なもので、来る時間がわからないとなると逆に待ってみたくなるものだ(筆者だけかもしれないが)。この日筆者は車に乗っていたのだが、あえて近くの駐車場に車をとめて実際にこのバス停でバスを待ってみることにした。

いつ来るのかわからないバスを待つという行為はなぜかすごくどきどきした。なんだろうこの胸のときめきは。偶然を装って校門の前で意中の男子を待つ女子みたいだ。はたして筆者の前に意中のバスは現れるのだろうか。

バス停には筆者の他にもちゃんとバスを待っているらしきカップルがいた。見たところ二人は普通の観光客らしく、バスの路線図を片手にシンプルバス停の前できょろきょろとあたりを見回していた。きっと二人は地元に帰ってから友達に話すに違いない、沖縄ってねバス停に時刻表がないの、信じられる、って。そんな話沖縄に住んでいる筆者ですら信じられない。


かすかに期待して待ってみます
だけどやっぱりバスは来ません。一緒に待つカップルはバスが来るのを心から信じている様子

カップルの様子をみているだけでやきもきします
そして待つこと15分。

その間にバス待ちと思われる客が一人二人と近寄ってきた。しかしほとんどの客はちらっとシンプルバス停をのぞきこみ、そしてバスを待たずに去っていってしまった。うん、まあそれが賢明な選択だろうと思う。

そんな中、ひたすら信じてバスを待ち続ける者が筆者以外に2名。筆者より前からいたカップルだ。彼女のほうはもうほとんど諦め気味の表情をうかべているのだが、何しろ彼がぞっこんやる気なのだ。大きく道に歩み出て遠くのほうに見えないバスの影を探したりしていた。彼女は早く彼が諦めてタクシーを拾ってくれないだろうか、と待っているような感じ。ここで彼女の気持ちを察することができるかどうかで彼の裁量が試されることだろう。


近くにいた交通整理のおじさんに伺いました
さらに待つこと数分。さすがに筆者も飽きてきた。

ちょうど近くに交通整理をしているおじさんがいたので、バスについてなにか知らないかと思い話しかけてみた。

「あの、バス停に時刻表がないんですが、いつ来るのか知りませんか」
「あー、バスねー、あんまり来ないと思うよ」

あんまり来ないのだ。まあ予想はしていたが実際に聞くとショックはでかい。校門を通りかかった意中の男子の友達に、あいつもう帰ったよ、と聞かされたような感じだ。


とても親切に教えてくれました。ありがとうございました
おじさんは親切にもこの付近の地図を取り出して説明してくれた。それによると

・バスはだいたい1日4〜5本通る
・あっち行きのやつは4時半ごろが最終
・こっちに向かうやつは20時ごろまで走ってるのを見たことがある
・少し行くと国道があってそこの方がバスが多い
・ここは来る時間がわからんから待たないほうがいいよ

くらくらしてきた。どこだここは。

おじさんによると少し先の国道沿いにバス停があり、そこではだいたい時刻表どおりにバスが来るらしい。どうにかしてそこまで行きたいのですが、と訪ねてみると

「いやあ、歩くと遠いよ。車がなきゃだめだな」

車があれば初めからバスなんて待たない。ここではすでにバスを交通手段として捉えられなくなってきているのか。



いつまでも待ち続けるカップル
おじさんの説得により筆者はバスを諦めておとなしく自分の車で帰ることにした。帰り際にもう一度あのバス停の近くを通ると、なんとあのカップルがまだバスを待っているではないか。すさまじい根性だ。もしかしたら来ないバスを待ち続けて息絶えた人の霊だったのかもしれない。

時刻表のないシンプルなバス停には、やっぱりいつバスが来るのかわかりませんでした。だけど確かに来ることは来るらしいです。

しかしものは考えようです。仮に時刻表があったのなら、人は時間通りに来ないバスに対して苛立つことでしょう。それが最初から時刻表がなかったとしたら一体何に向けて苛立てばいいのか。シンプルなバス停はせわしない現代人に、おおらかに生きろよ、と教訓を与えてくれているのかもしれません。



 

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