きっかけは、カレーうどんだった。

一度「どうしてもカレーが食べたくてしょうがない」という情報が脳にインプットされてしまうと、そのデータを消すことは容易ではない。たとえその日、白いＴシャツを着ていようとも、だ。

昼食にカレーうどんを食べることで脳と胃袋は満足したものの、案の定、白いＴシャツは犠牲になった。汁が飛んだのだ。
…犠牲？　いや、ちょっと待て。いっそＴシャツをカレー色に染めてみたらどうだろう。これならシミが、シミでなくなる。

というわけで、カレーでＴシャツを染めてみました。果たしてキレイに染まりますかどうか、乞う御期待。（高瀬 克子）

黄色いシミは破壊力十分

まずは、件のＴシャツをご覧ください。実に惜しい位置に汁が飛んでいることにお気付きでしょうか。もうちょっと下にズレていたらプリント柄の部分だったのに、なんとも恨めしい。

このＴシャツを着ているあいだ中、みんなに笑われているような気がしてならなかった。そしてあの笑いには、明らかに「なんてダメなヤツ」という蔑みの意味も込められていた。…いささか被害妄想気味ではあるが、そう思ってしまうくらいカレーのシミには破壊力がある。そしてつくづくバカっぽい。

染色について予備知識なし

くよくよしても始まらない。「こういうものは勢いが大事」とばかりに、資料を読まずに染めていくことにした。用意したものは「エスビーカレー」のみ。

まずは染めるための「液」を作る。いや、液といってもカレーなわけですが。

さてＴシャツを投入、という段になって、ハタと悩んだ。直前まで着ていたものを直接鍋に入れると、シャツに染み付いていた汗が煮出されるんじゃないのか？　この鍋はまだ捨てるつもりはない。たとえ自分のエキス（汗）であろうと、次にこの鍋を料理に使うのはイヤだ…、ということで、Ｔシャツを一度洗濯してから入れることにした。

だんだん複雑な心境に

いい匂いがしているカレー鍋の中に、いざＴシャツを投入。いやー、ものすごく興奮します。気がつくと「サンダーバード」のテーマを口ずさんでました。

鍋の前に立ってクツクツ煮込まれるシャツを見ていたら、次第に妙な気分になってきた。
「こんなことをして良かったんだろうか、あのカレー粉で何杯分のカレーが出来ただろうか、いつかカレーの神様のバチが当たりやしないだろうか、カレーの神様ってなんだ、やっぱりお釈迦様か」などと、とりとめのない考えが浮かんでは消える。うーん。なにやらカレーのいい匂いが、背徳の香りに変わってきたような気がしないでもない。

思わぬ結末

20分煮込んだあと鍋ごと風呂場へ運び、シャワーで洗い流した。
「うわー！ 黄色！ 黄色だ！ クッキリだ！ 24時間テレビのＴシャツみたいだ！」

いやぁ、ものすごくキレイです。まさかここまで上手くいくとは。鍋の中で見た時よりも、発色が強いような気がする。そんなにムラになっていないし、うん、満足満足。

思わぬ結末

…えー、喜ぶのはここまででした。

Ｔシャツに顔を近付けるまでもなく、なんというか、ニオうのだ。いや、決してカレーの匂いじゃない。例えて言うならアレだ、アジア雑貨店の匂いだ。そういえば、インドネシアに行った時よくこんな匂いを嗅いだが、あれはこの匂いだったのか。

今さらながらにネットで調べてみて驚いた。
「カレーの黄色に欠かせないターメリック（うこん）には殺菌・防腐作用があり、インドでは赤ちゃんに黄色く染めた産着を着せたり、傷にすり込んだりする。染めたマスクをして病気の感染を防ぐこともある」

へぇぇぇぇ。このＴシャツを着て外出することは控えたいが、ニオイさえ気にならなければ家で着る分には問題ないどころか、いいことだらけじゃないか。

翌日、すっかり乾いたので着てみた。ニオイは濡れた状態よりだいぶ薄れたが、代わりに色が少し褪せてしまった。染めムラも目立つ。ということで、寝巻きＴシャツに決定です。なんだかインドの夢を見そうですが。

みなさんも、カレーのシミを作ってしまったら、いっそ染めてみてはいかがですか？