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コネタ165
 
見る人を見る
見る人を見るために使用したカメラ。

見る人を見る、それは一体なんだ。

と、突然問いかけられても読者の方には意味が全く分からないと思うが、今これを書いている筆者自身にも、正直なところあまり意味が分かっていない。
見る人を見る、一体それは何なんだろうか。ひとつだけ確かなのは、人は目の前になにかある時、とりあえずそれを見ずにはいられないという、極めて単純な事実である。
見る人を見る。それが一体どういう結論をもたらすのかは分からないが、見る人を収めた写真をみながら考えていきたい。

(text by 宮崎 晋平


人は半ば無自覚にそれを見る。

ケータイを見る人を見る

まずは手始めに、ケータイ電話を見ている人を見てみることにしよう。ケータイを見る人はいまや探すまでもなくどこにでもいるし、気がつけば自分がケータイを見る人になっている場合も多々ある。

そんな時、人はいったいどんな顔をしているのだろう。今回は、電車やバスなどの車中でケータイを見ている人に照準を合わせ、見てみることにしよう。

以上が「ケータイを見る人」たちの顔だ。左下の写真の男性に思いっきり見返されているのはご愛敬としても、これを読んでいる貴方は、

・うつむき加減にケータイを覗き込んでいる。
・公共のスペースだからか表情に乏しい。

という二点がどの人たちにも共通していることにお気付きだろうか。それがどうした、と云われたらそれまでだが、なんだか少し寂しい気がするのは恐らく筆者だけではあるまい。だってどの人もうつむいて無表情に小さい画面を見つめているだけなんだぜ!?

「私はもっとエモーショナルな見る人が見たい」。そんな衝動に駆られ、筆者は自身が住んでいる埼玉から大阪・京都に飛び、より感情を露わにした見る人を見る旅に出掛けることになる。

名前に銀なのに色が地味なのは有名。

銀閣寺を見る人を見る

ということで、京都・銀閣寺にやってきた。銀閣寺は正式名称を慈照寺といい、足利義政が1482年に建立した山荘。ここから様々な文化が育まれたというが、今では観光名所としても知られている(修学旅行で足を運んだという方も多いのではないでしょうか)。

それでは、そんな「銀閣寺を見る人」を見てみることにしよう。

そしてまた見返されるのだ。

結論をひとことで言えば、観光名所はダメである。みんな、ろくすっぽ見ないですぐにカメラ構えちゃうんだもの。

冒頭の二枚の写 真の人物のように、茫然とただ対象をみつめる視点が、「銀閣寺を見る人」には欠けているような気がするが、その顔をケータイを見る人たちと比べてみると、エモーショナルな部分に少しは近づけたのではないだろうか。

しかしエモーショナルとは、筆者は一体なにを言っているのだろう? 微妙に着地点を誤りそうな予感が頭を掠めつつも、とりあえず原稿を進めていこう。

これが件の渓谷。確かにきれいだ。

渓谷を見る人を見る

続いて、京都・嵯峨嵐山までトロッコ列車に乗りにきた。7.3キロをひた走るこのあまりメジャーでない乗り物からは、保津川のとても見事な渓谷が見られるという。「大自然&トロッコ」という合わせ技を前に、人はどのようなまなざしを持ってそれと向き合うのだろうか。

それでは早速見てみることにしよう。

チビッコも渓谷に夢中である。

これである。この9枚の写真を、もう一度よく見てみていただきたい。この中に君のパパやママが写っていないかな!?
もし写っていたとすれば、それはとても素敵なことだといえる。ここまで目の前に広がる風景に向かって愉しそうにみることが出来るなんて、そうそうあることではないのだから。
ほとんどの人が満面の笑みを浮かべていて、みているこちらの方が嬉しくなってくるくらいだ。これでこそ見る人を見る甲斐もある。

そうして、この原稿もいよいよクライマックスである。

この人がシンガー・二階堂和美。

ライブを見る人を見る

最後は大阪のギャラリーで行われた、筆者が大ファンであるシンガー・二階堂和美の、観客限定40名というライブにいってみた。
二階堂和美についての詳しい説明はここでは省くが、検索すればすぐ試聴できるページも見つかるので、興味を持たれた方は各自探して頂きたい。
さて、「限定40名」というある意味で選ばれた人たちは、いったいどのようにアーティストを見つめるのだろう。

さしずめ瞑想中、といったところか。

薄暗く、人数も限られた密な空間を共有しているということもあり、その表情には信仰にも近いような、不思議な陶酔が表れているような気がする。

二階堂さんの歌声を聞き逃すまいと集中して聞き入る人が殆どだったが、すでに目を閉じて「聴く人」になっており、目をつむってしまっている人も中には見られた。憧れと陶酔が入り交じったその「見る人」の顔は、しかしなかなか素敵ではある。



ということで、様々なものを見る、4組の「見る人」を見てきた訳だが、お楽しみいただけただろうか? 筆者としては、見る人の特徴がなんとなくでも分かったような気がする。

その特徴とは、

人は異なった対象のものを見るとき、それぞれにその表情を変える。
対象がみる人にとって素晴らしいと感じる程、それがダイレクトに表情にでてくる。
能動的に動けば動く程、見たかったものを見たときの表情が明るいものになる傾向にある。
見る人の表情がエモーショナルなものを感じさせる時、その人は心から対象を受け入れているし、その方が見る人を見ていても愉しい気分になる。



等といった、言われてみればなんてことのない事実に過ぎない。しかしなんてことのない事実の中にも大切なものが隠れている気がするから、世の中って本当に不思議なところだ。

さて、これを読み終わった後の貴方の顔は、いったいどんな表情になっているのだろう? 願わくば、少しでも愉しげな表情をしていますように。



 

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