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コネタ


コネタ108
 
住宅地にあるダムは街にマッチしていた

 沖縄のシンボル、首里城近くの住宅街には巨大な壁がある。ダムだ。まさかこんな住宅地にダムがあるなんて。はじめは信じられなかったのだが、周辺を散策してみると意外にもこのダムが周りの町並みに溶け込もうと努力していることがわかった。そして確かにその巨大な壁は首里の町並みに完全に溶け込んでいたのでした。
安藤 昌教

住宅地に溶け込むダム

りっぱな石の門の向こうには長い一本道が

いきなりダムといわれても

那覇市の小高い丘陵地、首里町は有名な首里城や石畳の道なんかのある閑静な住宅街だ。そんな歴史ある町並みを車で走っていると、金城ダムと書かれた立派な石の門のようなものを見つけた。

え、ダム?

最初はよく状況が飲み込めなかった。街中でいきなり「ダム」と表示された石を見つけると人は一瞬白紙に戻るものだ。それでもなにかひきつけられるところがあり車を寄せると、車道のはるか下方に湖が広がっているではないか。がーん、「金城ダム」ってやっぱりダムのことだったんだ。


僕はダム利用者なんだろうか

ダムは近くに利用者専用駐車場まで完備していた。しかしダム利用者っていったい誰なんだろう。筆者も家ではもちろん水や電気を使っているので間接的に利用者といえるのだろうか。よくわからなかったがいいように解釈をして車を止めさせて頂いた。


いつのまにか歩いていた道がダムだったのでした

行けばわかるさ

金城ダムと彫られた石の門を通過すると湖の対岸まで延びるまっすぐな一本道が姿を現した。白い石畳の長い一本道の向こうには建物が見える。歩いてその道を渡るとはるか下方にはたっぷりと水を蓄えた湖が。これってもしかして・・

その通り、この道自体がダムだったのでした。筆者は知らず知らずのうちにダムの上を歩いていたのです。なんだか人生の教訓みたいだなと思った。危ぶむなかれ、踏み出せばその一足がダムになる。ありがとう。


首里城を思わせる壁

町並みに溶け込むための工夫がいっぱい

この金城ダムは市街地にあるためか、その巨体を町並みに溶け込ませようと必死に努力しているようだった。普通ダムというとコンクリートの巨大な人工物を想像するため、およそ人の暮らしとはかけ離れたところにあるように思う。しかしここは歴史の街首里だ。その景観を無機質なコンクリート壁で損ねてはいけないのだ。

町並みに溶け込むための努力の一環がダム敷地内にあるこの展望台だ。まるで首里城の城壁を思わせる琉球石灰岩の見事な石積みと優雅な曲線。この石積みは首里城の城壁と同じ「布積み」とか「あいかた積み」と呼ばれる伝統的な工法で作られているらしい。これはダム本体にも施されており、そのおかげで巨大な壁は見事に石畳の町並みに溶け込んでいるのだ。普通のダムからは頭一個抜け出ている。

およそダムとは思えない景観
ダム自体もコンクリートの表面に石積みが施されている

周りには緑がいっぱいです

周囲の自然にも溶け込む努力

さらにダム湖の周りにはたくさんの木々が植えられていて、緑の多いこの地区にダムという巨大な建造物を違和感なく溶け込ませていた。ダム湖の周辺にはきれいに整備された遊歩道があり、誰でも気軽に散策することができる。湖はぐるっと一周するとちょうどいい距離になるため、朝晩の涼しい時間帯にはジョギングをする市民が数多く訪れる。ダムは市民の憩いの場にもなっているのだ。

注:筆者は油断して遊歩道を歩いていたので、またも熱中症一歩手前になりました。沖縄の夏はまだ終わっていません。危険です。


クマゼミを見ると反射的に興奮する

ダムの周りには自然がいっぱい

ダムの周りの小高い丘には、住宅地を縫うようにしてところどころに深い森が広がっている。森の奥へ一歩足を踏み入れるとセミの鳴き声で周りの音がすべてかき消される。

それにしても沖縄のセミだ。筆者の出身地愛知県ではアブラゼミがメジャーで、クマゼミはレアだった。クマゼミを見つけたら死んでいてもとりあえず持って帰ったものだ。しかしここ沖縄ではどこを見てもクマゼミだらけなのだ。むしろアブラゼミの方が探しても見当たらない。セミの分布にも地域差があるのだろうか。沖縄はこのことを愛知の子供に宣伝するべきだ。子供の頃の僕が聞いたら駄々をこねてでも取りに来ていただろう。

他にも木に登るカメレオンみたいなトカゲもいた。緑色で目がぎょろっとしていてトカゲにしてはやたらとでかい。なんかトサカみたいなものまで付いていた。捕まえたかったのだが、さすがは野生。目にも留まらぬ速さで逃げられてしまった。それにしてもなんだったんだろう。イグアナか。

もちろんハブだっていそうな雰囲気だ。これもまた個人的な話になるのだが、筆者は沖縄に住むまで町には普通にハブがにょろにょろといるものだと思っていた。咬まれたらどうしよう、抗体だっけか血清だっけか、とか考えて心配していた。実家の両親なんていまだに電話を切る前に「ハブには気をつけろよ」と付け加える。ところが沖縄の人に聞くと今ではめったにハブはいないのだという。安心だけどすこし寂しい気もする。

カメレオンみたいなトカゲがいたり
ハブに注意。自然動物がいっぱいなのです

帽子三段重ね

警備にも抜かりはないのです

湖の対岸にあった建物はダムの管理所でした。建物の前には警備員さんが配置されていた。

彼が金城ダムの警備員さん。おそらく警備員のユニフォームとして帽子の着用が義務付けられているのだろう。しかし強烈な日差しを避けるために、頭に手ぬぐいを乗せさらに麦藁帽子を被り、その上に申し訳程度に警備員の帽子を乗せていた。

ダムの巡回は1日5回、敷地内をくまなく見て回る。

「酔っ払いや子供がおぼれたりしないためですわ」

真っ黒に日焼けした顔にティアドロップ型の濃いサングラスがよく似合っていた。この仕事に誇りを持っているんだなと思った。暑い中本当にご苦労様です。


ダムの断面模型

ダム管理所内には展示スペースも設けられている。ダムの断面図の模型やダムに関するビデオを放映するモニタ等が設置されていた。

この展示スペースでいろいろと資料を見てダムについて勉強することができた。それによるとこの金城ダム、台風や大雨の際に下流に流れる水の量を制御して町を水害から守る役割をはたしているらしい。特に発電とかはしていないとのこと。すべては地域のためにあるのだ。


日陰で寝るお父さん。背中で語ります

市民の憩いの場なのです

敷地内にある休憩所ではおじさんがテーブルの上で昼寝をしていた。ダム周辺の日陰は水辺を通る涼しい風がぴゅーっと吹き抜けてとても気持ちがいいのだ。確かに昼寝もしたくもなる。しかしおじさんの足元にはやはりハブに注意の看板が建てられていた。たぶん警備のおじさんが見回りの時に起こして注意するのだろう。

金城ダムは沖縄の歴史的町並みに見事に溶け込んでいました。巨大な人工物は無機質になりがちですが、やる気を出せば周りの自然や町並みに溶け込むこともできるのです。金城ダムは大きな建物のお手本みたいなすてきなダムでした。


 

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