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コネタ


コネタ043
 
名曲喫茶クラシックで遥かなる時代に思いを馳せる
ああ、やっと見つけた。見るからに古そう。

"名曲喫茶クラシック"
創業昭和5年(1930年)。
74年もの間同じ場所で人々に安らぎを提供してきた喫茶店が中野にある。もちろん、今日も営業中。
それだけでもかなり心がくすぶられるんですが、なんと74年間、建物の外装はおろか内装に至るまでほとんど当時のままで運営しているらしい。
『リノベーション』と言う概念に真っ向から立ち向かう戦前生まれの喫茶店にレポートに行きます。

おっと、足元にお気をつけください。
床、抜けてるところありますからね。

梅田カズヒコ

名曲喫茶クラシック
中野区中野5−66−8


ほんとに営業してるのかなー。
早くもライター心を強く刺激する外観。
ちなみに奥に見えるのが中野一の商店街、中野サンモール。
か…か…傾いてますよ。
カメラを持つ手が傾いているのではない。床が、テーブルが、イスが傾いているのだ。
アイスコーヒー。普通です。ウワサは嘘です。
妙に落ちつく気がするのは僕だけ?

おいおい、ほんとに営業してるの?

ネット上ではこんな噂がささやかれている。

レコードは音とびが激しく、何の曲かわからないぐらい。
メニューはコーヒー、紅茶、ジュースの3品のみ。
それぞれホットかアイスか選べる。
つまり「ホットジュース」も飲める
コーヒー用のミルクは、マヨネーズの蓋のようなものに入っているらしい。

興味深い話ばかり。これはさっそく確かめにいかなくては!

JR中野駅から中野通りを北側に歩く。中野サンプラザを横目に見ながらセブンイレブンと吉野家の間に、ひっそりと古き良き中野の記憶を今に残す路地裏がある。そこに時代の風に耐えるようにひっそりと「クラシック」は佇んでいる。看板は真新しいが、建物は「ホーンテッドマンション」のようないでたち。写真は昼と夜に撮影しているんですが、夜はすごい怪しげです。

よーく見ると建物自体が少しゆがんでいる。74年の月日はこの建物に強くのしかかっているのだ。

 

中に入ったぜ!

さっそく入ってみると、意外に若い店員さんが出迎えてくれた。どうやら入り口でオーダーをするらしい。メニューは噂どおりコーヒー・ジュース・紅茶の3つだ。ちゃんとホットジュースも飲める。しかし紅茶はホットのみだった。ホットジュースにかなり心を奪われたが、アイスコーヒーのミルクピッチャーを検証するため、ここはアイスコーヒーをオーダー。

店内は真ん中が吹き抜けの2階建てになっていて、1回はクラシックを聴きたい人用、2階はコーヒーを飲みながら談話したい人用らしい。1階には埃をかぶった蓄音機や、さまざまなレコードや、高価そうな絵画が飾られている。2階も確認するため、2階席に行ってみる。
かかとをつけれない狭い階段を登り2階へ。
きしむ床の音とクラシックを楽しみながらコーヒーを待つ事に。
店内は意外に広く、1階、2階あわせて80人ぐらいは入れそうだった。

 

音とびは雨音の調べ

名曲喫茶クラシックと銘打つだけあって、いい音響設備を使っているのか、耳障りどころかかなり綺麗な音楽が店内に流れている。いいライブハウスはかなりダイレクトに客席に音が響くが、この店にもそれを感じる。

なんだろう、この音との一体感は!?
と思っていたら床が古くて、床とソファがちょうど"骨伝導スピーカー"のように音にあわせて震えていた。なるほど、あえて建て替えないのは、この店全体が天然の音響システムのようになっているからかもしれない。
レコードの音とびについてだがそれほど気になるものではない。確かにぽとぽとと音は聞こえるが、外で雨が降っているような音だった。雨の日に部屋でクラシックを聴く。そんな風情だ。ラジオで聴く名曲はCDのそれより心に響く時があるように、古いレコードで聴く名曲は妙に僕の琴線に響いた。
アイスコーヒーのミルクピッチャーは普通です。普通にうまかったです。ちょっぴりアメリカンで夏の体を落ち着かせるにはちょうどよかったです。
まだ新しい発見がありそうな店内。「この席、机が不安定ですので、ご注意ください」等貼り紙を一つ一つ見ていくのも楽しい。
でもここですべてを書くのはやめておこうと思う。実際に行った時に新しい発見があったほうがいいでしょ。
東京近辺にお住まいの方、この夏東京中野方面にお越しになる予定のある方、ぜひ一度行ってみてください。

クラシックは日本の"生きた"文化遺産です。




ちょっと1930年近辺を振り返ってみました。

「74年前」と一口に説明するのは簡単だが、74年の時の流れは僕らの想像を絶する長さだ。そこで当時の事件と対比する事によって、この喫茶店がいかに古いのかを検証してみました。
1930年近辺の主な事件

1927 リンドバーグ、初の太平洋無着陸横断飛行
1929 世界大恐慌
1930 中野『クラシック』オープン
1931 満州事変
1932 5・15事件
1936 2・26事件
1937 日中戦争勃発

歴史にそれほど詳しくない僕でもわかる。「クラシック」、古すぎ! 歴史教科書の大事件に肩を並べる古さである。リンドバーグがヨーロッパ大陸を見て、「翼よ、あれがパリの灯だ」と言った3年後には中野に「クラシック」がオープンしている。リンドバーグも偉業だが、今の今まで営業してきたクラシックも偉業に違いない。満州事変を知ってる喫茶店が日本に何軒あるのだろう?

 

今週のおまけ
クラシックを探し中野をふらふら。携帯電話屋の看板が気に入って思わずパチリ。

うん、携帯電話売ってる店だ。分かりやすい。
 

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