滑り台のてっぺんまで続く階段を上ると、ぱっと視界が開けた。想像していた以上に高さを感じる。おずおずと斜面を覗き込んでみた。
怖い。
高々3メートルくらいの落下のはずなのに、なんだこの恐怖感。崖から下を見下ろしてるみたいだ。だけど僕は大人なのだ、こんな子供の遊び道具にびびってはいられない。意を決して滑ってみることに。
滑り台は手すりにつかまってスタンバイする。そこから体を伸ばして斜面にぶら下がり、その後文字通り、落ちる。注意書きにも書いてあった。「ポンと飛び降りるように滑ってください」、と。
斜面にぶら下がると、足が空中でぶらぶらしている。これって80度というよりも、直角に近いんじゃないか。落ちた先にはスロープがあるはずなのだが、実際にぶら下がると、そんなもの見えない。目の前には何も無い。手を離したら、落ちるのみだ。
ポン、と注意書きに書かれていた通り、飛び降りた。落ちたのは一瞬だった。その後すぐに、背中とお尻が斜面と痛いほど擦れる。気が付くと、僕は半分放心状態でスロープの中央に座り果てていた。
公園に遊びに来ていた人に聞いてみたところ、この滑り台、近所では結構有名らしい。「だけど、誰がすべるのかねえ、一体」と近くにいたおじさんがつぶやいていた。その通り、この滑り台だけ、森の奥のほうにひっそりと設置されていて、周りに子供の姿はなかった。
うわさの急勾配の滑り台は確かにあった。何の目的なのやら見当もつかないが、たしかにそこにあったのだ。目的を達成したはずの僕は、何やらわけのわからない脱力感に打たれながら、てくてくと帰路に着いた。
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