通っていた小学校には百葉箱があった。 中に何が入っているのかずっと不思議だった。
百葉箱のすきまから覗いてみても何も見えない。 常時鍵がかかっていたので中はずっと謎のままだった。
見えなかったのは、光を通さず空気だけ通す、そんな角度であつらえた百葉箱仕様のすきまであるからだろう。 排水溝では水を通したが今度は空気だ。 すきまには形を留めぬものを通すという特徴があるのだろうか。 いずれにせよ考察は後回しだ。
なぜかファンタジーっ気がもりもりしていた小学校低学年時には 魔法の薬や竜退治の剣、などが入っているのではないかと考えたこともあった。 「ある日学校に竜が出た日には百葉箱から剣を取り出して‥‥」 「百葉箱に入っている薬を飲んだばかりに魔法が使えるようになって‥‥」 そんなことばかりを考えていたように思うのだが、小学生の考えることなんてどれも似たりよったりなので、自分だけの経験でもあるまい。 全校生徒の実に90%がそうだった、と言っても違和感がない。 小学校とはひどくファンタジーな場所だったのだ。
そして生徒の大半がそんなのばかりだとは学校も百葉箱も不本意であったろう。 生徒からの過度の期待に心苦しく思ってもいただろう。 そんな大したもの入ってないんですけどねー、 夕暮れの校庭を見ながら教頭先生がつぶやいている姿も想像にたやすい。 全校生徒を集めて百葉箱についての発表などもしなくてはならなかったろう。 ある日校長先生から 「あなたたちが思っているような魔法関係や竜関係のものなど入っていない、入っているのは理科関係のものだ。」 と発表があるのだ。 生徒の顔からはガーン、と失望が浮かび上がったろう。 いいとものゲスト!帰るな!の「えー!」と同じ声も上がっただろう。 泣き出すものもいたかもしれん。 失禁してしまうものもいたかもしれん。 大変な事態である。 しかしその大変さは身勝手なところからきている。
実際のところ、 魔法関係や竜関係のものなど入っていない、入っているのは理科関係のものだ、 そんなことが分かった高学年時にはもう魔法にも竜にも興味がなかったのでなんとも思わなかったが。
ふ〜ん、くらいなものだった。 ( 2007/01/14 12:00:00 )
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