2日目開始
1日目から見つからなかった時の言い訳をこね始めた自分に驚きながらのニホンザリガニ探し2日目は始まった。今回は丸3日ニホンザリガニ探しに当ててある。にも関わらず初日からの弱音。気合を入れていかねば。
と思った矢先に気が付いたのだけれど、ガッツボースの位置が初日と比べて低い。昨日の疲れが取れていないのか、はたまた昨日の結果から見つからない気がしているのか、どちらにしろ士気が低い。これじゃダメだ、と自分に言い聞かせながらバス停に向かった。
本日は定山渓という場所に向かう。 札幌市なのだけれど山深い場所にあるらしい。だったら水も綺麗だろうから期待できるだろうと思ったわけだ。問題は熊の心配。この日の朝刊にも熊の文字が全盛期のTRFくらいに躍っていた。
熊は怖いけれどニホンザリガニはぜひ見たい。 そこで「熊よけ鈴」を付けることにした。リュックサックにこれをつけることで、歩く度に鈴の音がなり熊を避けることができるのだ。熊がいる山でのマストアイテム。アウトドア用品店などで買うことができる。
セミとブヨと悲鳴
定山渓は山の中にある温泉地。 温泉につかりたいとも思うがそうは行かない。ニホンザリガニが僕を待っている(はず)。定山渓を流れる豊平川に沿って上流へと歩き、そこに流れ込む沢を見つけては、沢を歩きニホンザリガニを探していくことにした。
沢の水は冷たい。 ニホンザリガニがいそうな雰囲気でいっぱいだ。その代わりに道もないので、沢の中を歩くしかない。静かな山の中に僕の作った熊よけ鈴とセミの鳴き声と悲鳴だけが響く。
北海道はセミが鳴いていた。 最初に藻岩山でセミの鳴き声に気がついて登山者に聞くと「カエル」と教えられた。雨乞いをする時のカエルの鳴き声に似ていたので納得したが、後で別の人に聞くとエゾハルゼミと教えられた。その後、捕まえたので間違いなくセミが正しい。
山に響く悲鳴は僕の悲鳴だ。 別に熊に遭遇したわけではない。ブヨに刺されているのだ。ハエのような大きさで足や腕にとまっては刺していく。刺される瞬間がチクっとして痛いのだ。ザリガニ探しに集中していたらチクっとして痛く「キャ !」と悲鳴をあげる。
いないな
ニホンザリガニは見つからない。 沢を歩き石や落ち葉をのけていくのだけれど、そこには何もいないか、よく分からない小指サイズの幼虫みたいなのがいるだけだ。この幼虫を「ニホンザリガニ」と名付けて溺愛しようかと考えたりもした。そしたら、それはたとえ謎の幼虫でもニホンザリガニなのだ。
足場も悪く転びそうになる。 もしニホンザリガニを探していなければここに来ることはなかっただろう。朝の山手線車内のような密度でブヨがいる。ブヨ天国。それは僕には地獄だ。もう二度と行きたくない。
靴は濡れていいものに履き替えている。 靴の柄はハート。数ある柄の中から自然にハート柄を選んでしかったのだ。どうやら僕の心には女子高生が住んでいるらしい。そういえばブヨに刺された時の悲鳴も「キャ!」とどこか可愛らしい。ニホンザリガニは発見できないけれど、僕のそういう愛らしい一面は発見できた。ニホンザリガニ以上の収穫なのではないだろうか。
沢を見つけては探しに入りを繰り返し、豊平川に沿って上流へと歩いた。しかし、ニホンザリガニは見つからず景色はさらにのどかなものへと変わっていった。ニホンザリガニとは、みんなの心の中に住むザリガニなのかもしれない、という考えが確信に変わり始めていた。