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土曜ワイド工場
 
高架橋脚をクッキーにして並べたい


橋脚が好きで、それがたくさん並んでいる姿が大好きなので、クッキーをつくって、たくさん並べてみようと思ったのだ。

田村 美葉



話は去年の夏にさかのぼる

昨年の夏、お台場で開催された当サイトの一大イベント、デイリーポータルZエキスポで、私は橋脚を売っていた。


こんな具合で。

「会場でなにか好きなものを売ってよい」との編集部からのお達しに、そのまま「好きなもの=橋脚」と思考が展開、誕生したのがこの謎のブース。


ちなみにエキスポ前日にはこんな写真を家でたくさん撮って悦に入っていた。
神秘的! じつに素敵!

モデルとしたのは、2010年を代表する純粋橋脚たちである。


東京モノレール。これは2009年当時、新国際線ターミナル建設真っ只中。激渋の経年劣化カラーがオツな旧橋脚と、形はまったく同じの真っ白な橋脚が立ち並んでいる姿に感動した。

そしていわずとしれた久喜白岡。我々、橋脚好きの間ではすでに定番の巡礼の地。

今見てもじつに可愛らしい。しかし橋脚の本来の役割は高架を支えることにあり、これはうまれたての未熟な姿でしかない。東京モノレールは昨年4月に新旧橋脚の一大交代劇があっていまは新国際線ターミナルもオープン、久喜白岡も既に桁が架かり始めたのを大山さんがすかさずレポートしていた。少し寂しいが仕方のない現実である。


ちなみに市販の鉄道模型は橋脚だけ持っていて前から部屋に飾っている

東京モノレールも久喜白岡も、ミニチュアならばいくらでも並べておける。ドミノみたいできっと可愛いに違いない。うむ、これは売れる。というわけで、「エキスポって何人くるんだろう…。ああ、何本作ったら足りるかな?」と、マーケティング視点皆無の橋脚づくりが始まったのであった。

 

橋脚が並ぶまで―夏のレジンキャスト編―


原型。左が東京モノレールモデル、右が久喜白岡モデル。ホワイトバランスが大変なことになっているが、木製である。

なかなかよくできている。なぜなら、設計図を描いて東急ハンズの加工コーナーに持っていき、プロに切り出してもらったからだ。
そんな反則技を利用したツケで、原型は原価で1本1,000円を超えている。一刻もはやく、レジンキャストでコピーを大量生産して、1本あたりのコストをさげていかなければならない。エキスポには400人くらい来るというし。


はじめてのレジンキャスト。A液とB液をそれぞれ測って、まぜあわせ、急いで型に流し込む。急いでいたのでホワイトバランスがまだおかしい。

ちなみに左下に写っているシリコンゴム型だが、これを作った過程だけ、写真が一切ない。完全にてんぱっていたせいである。一度、まだ型をとらぬうちに、なすすべなくみるみるうちに固まってゆき、ひとつ2,000円だかした型抜きセットを一瞬にして無駄にする、という悪夢があったような気もするが、あまり思い出したくない。とにかく各モデルひとつずつだけ、型ができた。


数秒後、白くなりはじめる瞬間のいろが好き。
一瞬にして固まるレジンキャストは、さわると熱い(さわってはいけない)。

つかえる型がひとつしか作れなかったせいで、複製作業にはかなりの時間を要した。夢中になりながら、眠れぬ夜をいくつか過ごした。


そしてシリコン型は壊れた。

こうしてなんとかエキスポ当日、東京モノレールモデルが7本、久喜白岡モデルが12本、ブースに並び、上のとおりの図となる。橋脚たちは無関心でも熱狂的人気でもない「ふーん」といった感想を主にあつめてエキスポをつつがなく終え、わたしには「今日からもう、橋脚つくらなくていいんだな…」という安堵感だけが残った。

 

橋脚が並ぶまで―冬のクッキー編―

と、ここまでが去年の話だ。いまさら去年の夏の話をするのは、このリアルタイム全盛時代にあってなにか新鮮であった。思い出すとよみがえる、ふしぎな高揚感。

ときは、バレンタイン&ホワイトデーシーズン。お菓子が街をかけめぐる季節である。
ここでまた、「橋脚並べたい欲」がわきあがって、しまったのである。


主な材料。薄力粉140g、砂糖55g、牛乳12g、バター110g、アーモンドパウダー35g。

アーモンドパウダーをココアパウダーで代用したところ、味ともどもいろいろ失敗したのでおススメしない。これらを混ぜて


このあと失敗するココア味と
まぁまぁの成功をみせるアーモンド味の生地をつくる。

まず失敗のカカオ味からいこう。


アルミ缶を切って、クッキー型をつくろうと思ったのだ。
こんな具合に、アルミを細く切って、原型に沿って形作る(東京モノレールモデルはいろいろ複雑だったのでこの時点で断念)

しかし、もともと雑な性格がわざわいして
型抜きしているさなかから、アルミが折り目で分裂。型の意味をほぼ成さない結果に。

THE失敗作。も、ものすごくいびつ…

コレではだめだ。私は橋脚を立てて並べたいのだ。気をとりなおしてアーモンド味。「クッキーの型なら同じものを大量複製できる!」という最初の動機を完全に無視して


クッキングシートを橋脚の形に切り抜き(ここでも東京モノレールモデルを試しているがやはり次の過程で面倒すぎて断念)
生地の上に並べて、包丁で地味に切り抜いていく作戦にでる。

焼けた。まだいびつではあるもの

立った。並んだ。

お気づきかと思うが、土台にしているのも、橋脚である。ちょうど交互にして並べると、橋脚をはさみこむことができ都合がよかったのだ。こうなったのも、セメント代わりに用意してきたチョコレートシロップがまったく使い物にならなかったためである。土木工事って奥深い。

まさか自分が土台になるとは思っていなかっただろう橋脚よ、すまぬ。

く、久喜だけに…

嬉々として高架橋脚ファンの集まりに持っていった橋脚クッキー、おおむね好評のなかでこんな声がささやかれた。
「おお、久喜だけにクッキー!」
はっ。久喜だけに、クッキー…。久喜だけに…。
まさか駄洒落でクッキーを作っていたという重大な事実にこの時点まで気づかなかったのである。


 
 

 

 
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