とにかく朝が早い
調教は毎日2時半から行われているそうだ。 僕の場合はまだ寝てもいない。人間が眠たいのは大前提として、馬は眠たくないのか調教師さんに聞くと「眠くない」とのことだった。馬は短い睡眠を何度も取るらしく、また大体決まった時間に調教するから生活のリズムが決まっているのだそうだ。
調教はこの1200メートルのコースを3周半走るのだそうだ。 4.2キロだ。普段運動しない僕は眩暈がする。しかもダートコースというのは砂浜を走る感じなので余計に疲れる。
自分が馬でなくて良かったと心から思うと同時に、そんな頑張っている馬を抱きしめたくもなる。しかし僕は馬は好きだが、怖いので抱きしめることも出来ない。なんて無力なんだと思う。
調教事情
川ア競馬場の調教師には定年がない。 JRAの調教師だと70歳が定年と言うことなっているけれど、川ア競馬場ではそういった決まりはなく、日本で唯一定年がない競馬場なのだそうだ。
最近まで93歳の調教師がいたそうだから驚きだ。 今でも81歳の調教師がいたりする。しかも、元気だから年を聞いて驚く。猫背の僕の方がよっぽど年寄りだ。早起きは健康にいいのだろうか。
この日は雨が強く、砂の上に水が浮いていた。 調教師の方々は「プール調教だ」とかと言っていた。本当にプール調教というのもあるが、雨の日の調教のことではない。
ただ川が氾濫して本当にプールになるのではとも思った。 雨はひどいし、すぐそこは多摩川なのだ。そう思って聞いてみると、台風が来ると、この小屋がある辺りも水に浸かるのだそうだ。その日だけは、槍が降ってもやる調教が休みになるとのことだった。そりゃそうだ。
厩舎に戻る
調教用コースを出て道を一本渡って厩舎に戻った。 ここで馬は生活している。馬の世話をする厩務員などもここに住んでいたりするそうだ。朝が早いからそっちの方が便利な気がする。
厩舎は藁のいい匂いがした。 調教師さん自らが馬の体を拭いていた。風邪をひくので、調教後は乾くまで拭くのだそうだ。
その様子を見ていたら、写真撮ってやるよ、と調教師さんが言ってくれた。僕の心の中では、嬉しいやら、怖いやらで一瞬の葛藤が起こった。
僕は馬が好きだけれど怖いのだ。 好きだから別れるみたいな淡い恋愛小説のような関係なのだ。なので、恐る恐るゆっくり近づき馬に触れる。初めて触ったのだけれど、馬の肌は柔らかく、張りがあり温かかった。こういう抱き枕が欲しいと思った。
雨でびしょ濡れの僕が馬の横に立つと、洪水で溺れた人を助けた馬と助けられた人の記念撮影みたいになった。台風の翌日の新聞の地方欄に載っていそうな写真だ。
調教師さんが「カッコいいな〜」と言ってくれていたので、どんな写真かと思ったらこの写真。確かに馬はカッコいい。照れるな〜と言ったあの時の僕を殴りたい。