地味な竜宮城事情
富貴は海に面している。 浦島はこの海を見て育ったのだ。親に怒られて、海まで走って来たこともあるだろう。恋に敗れて海に向かって「バカヤロ〜」と叫んだこともあっただろう。受験勉強に疲れて、ため息をつきながら、この海を眺めたこともあっただろう。
そんな海を見ながら現代の浦島太郎は歩く。
小さな橋だけれどこれを「浦島橋」と言うらしい。 この下を流れる川を浦島太郎は亀にまたがり下ったそうだ。竜宮城へとつながる道なのだ。随分と地味だ。
竜宮城への道は、もっと華やかだと勝手に思っていたけれど、そうでもないらしい。乙姫が太郎を迎えた場所も地味だったし、竜宮城は経済難だったのかもしれない。バブル時に建てられたテーマパークのバブル後みたいな感じだろうか。
浦島太郎、仲間を得る
知里付神社には浦島太郎が持ち帰った玉手箱が保管されているらしい。境内には浦島神社もあり、そこでは浦島太郎が祀られている。
昔話の中だけの人かと思いきや神様扱いである。 僕も浦島太郎の格好をしているので、チヤホヤしてもらえないだろうか。二学期から転向してきた爽やか少年みたいにチヤホヤされたい。
次に浦島太郎を竜宮城に運んだ亀の墓がある真楽寺に行こうと思うが、道が分からない。日も沈みかけている。
さて、どうしたものかと、僕得意の「あきらめて帰ろう」を大人の女性の色気くらいにムンムンに出していたら、地元の中学生が通りかかった。
中学生に何してるんですか? と聞かれたので、浦島太郎の縁の地を巡ろうと東京から来た、と言うと暇なんですね、と言われた。
ズバッと言われると事実でも傷つく。 僕は暇だけれど、人から事実を言われると辛いのだ。
竜宮神社に続きこちらも工事中だった。 生まれ持っての運の無さを感じる。さて、お目当ての「亀の墓」はどれかな、と探すととても小さい。人間に例えるならば、オレのプリン食べた、で大喧嘩するくらいの小ささだ。
これで、ここで見るべき物は全て見た。浦島太郎尽くしだった。駅に戻る道も中学生が案内してくれた。その道すがら彼らに話を聞く。
彼らは野球部でこの日も朝から練習だったらしい。 数学が一番苦手で、2番目が英語。そして、3番目に苦手なのが意外にも音楽らしい。理由を聞くと、先生が怖いらしく「恐怖しか感じない」とのこと。嫌な音楽だ。
名古屋へ
富貴駅から浦島太郎が玉手箱を開けた長野の山奥を目指す。浦島太郎は、帰って来てすぐには玉手箱を開けずに、全国をぶらついた後に、長野の山奥で玉手箱を開けたのだ。
とりあえずは、金山駅を目指して電車に乗り込む。
電車の中は子供たちでいっぱいだった。 この子たちは浦島太郎を知っているのだろうか。さっきの中学生は浦島太郎と桃太郎を混同していて、結果「誰だっけ?」と言っていた。知らないのによく道案内してくれたな、と感心する。
金山駅に着いたら、「浦島太郎だ!」や「どっから来た〜?」と小学生に絡また。釣竿を取られ、腰蓑を「サラサラでリアリティない」と罵られる始末だ。
こちらは浦島太郎を知っているようで、安心したが、元気が良すぎる。子供恐るべしだ。
「飴ちょうだい!」と言われたのだけれど、浦島太郎にそんな機能は無い。どこから来たのだ、「浦島太郎=飴を持っている」というその図式。