そして臨界を迎える鯉
ファイナル鯉スポットとして紹介するのは、埼玉県にある東武動物公園。動物園と遊園地が合体した、ハイブリッドレジャーランドだ。パンフレットにそう書いてある。
パンフレットの園内図に「プレジャーランド」や「ハッピーオンステージ」といった楽しげな言葉が踊る中、漢字三文字で攻めてくる「鯉牧場」。ここだけキラキラした感じがない。
地味な響きながら、心に効いてくる重みのある言葉。この場所こそが私にとってのプレジャーランドであるはずだ。
池にせり出したデッキになっている鯉牧場。妙に目の大きい鯉がこっちを見ている看板は、鯉のハードな部分をなんとか和らげ、ポップな雰囲気を出そうとしているにも見える。実際、たくさんの人たちが楽しんでいるではないか。
しかし、求めているのはヘビーな鯉。どれくらいのものだろうか。
期待を裏切らない密度。いい鯉出てる。
同じ密度系であった前ページの松見公園が整列していたのに対し、こちらはアグレッシブにカオス。深さのある池で泳ぐ鯉を真上から見ると、こういう感じになるのか。別角度からの新発見だ。
ここにも鯉にエサをやる子供の姿があった。まだ母親に抱きかかえられるような齢のその子は、泣くでもなく笑うでもない表情でじっと鯉を見ていた。
それはそうだ。理解できないのだと思う。ただ心に浮かぶのは「鯉がすごい」ということだけ。家族連れがこんなに楽しいレジャーランドで、鯉牧場にひっかかってる場合なんだろうか。
それでも、鯉牧場を離れがたくて親に「もっといたい!」とねだる子供の姿は何人も見られた。鯉が子供の心にがっちりと食い込んでる。私もエサをやってみよう。
嫌な上司のことも、振り向いてくれないあいつのことも、この鯉たちを見ている間は忘れることができるはず。圧倒的な訴求力で、心を一旦リセットする鯉セラピーだ。
ただこういうのって、子供に見せていいんだろうか。おしっこもらしたりしてる子、いないだろうか。
もっと生き生きとした鯉を見たい方には、動画もある。
心を無の境地にいざなう鯉の姿。池には鴨もいて、ときどきおこぼれのエサを食べてはいるのだが、基本的には鯉から距離を取っている。確かに近寄りがたいものがあると思う。
ふとしたきっかけで目覚めた鯉の魔力。いくつかの鯉スポットでそのエネルギーを目の当たりにして、自分にも何かできそうな気がしてきた。
デートがマンネリ化してきたカップルや、反抗期の子供を抱える家族のお出かけ先としてもいいのではないか。一緒に圧倒されることで気持ちが共有され、絆が深まるはずだからだ。
激しい鯉を見ると、謎の元気が湧いてくる。今回の試みでわかったことは、そういうことだと思う。