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はっけんの水曜日
 
金沢にある“忍者寺”が面白かった!


忍者寺、と聞いて何を思い浮かべるだろうか。

バン!と叩くと畳や戸板がひっくり返り、窓から大凧に乗って高笑いしながら飛んでいく…のはマンガの読みすぎ、テレビの見すぎですね。

しかし、テレビやマンガの世界でなく、「忍者寺」は実在するのだ、金沢に。

戸板はひっくり返るのか、隠し部屋はあるのか確かめに行ったのだが、予想以上に素晴らしいところだったでござる。(注・忍者は出てきません)。

乙幡 啓子



必ず写ってます

最初に取材の申し込みをしたとき。「必ず、当方の説明員入りで撮影してくださいますか」ということだった。撮影した写真を無断使用されたことが何度もあったからだという。これは、ちゃんと居住まいを正して取材しないと、と多少、緊張して出かけた。

しかし応対いただいた岩田さんは大変物腰やわらかく、そしてわかりやすく流れるような説明。緊張は一気にほどけた。

以上のような事情で、これからの記事の大部分には岩田さんが必ず写っていることになりますが、よろしくお願いいたします。


金沢駅で自転車を借り、漕ぐこと15分ほどで到着。

さて忍者寺の忍者寺たるゆえんを説明しよう。もちろん忍者が本当にいたわけではない。

正式名は「正久山 妙立寺(しょうきゅうざん みょうりゅうじ)」。表向きは加賀藩主・前田家の祈願所だ。しかし実は、歴代住職は殿の相談役でもあり、「金沢の第2の城」という側面もあった。

その頃は徳川幕府によって全国統一が成された時代。多くの大名が、ささいな理由で取り潰しに合っていた。加賀藩もいつどうなるかわからない。ということで、利常公もバカ殿を演じたり、母を人質に出したりして、謀反の疑いをかけられないようにしていた。だがもしもの場合に備え、集めた寺に武士を置いて防御地点とした。この妙立寺はその要だったのだ。

実際は運よく攻められずに済んだというが、そこここに仕掛けや隠し部屋が配され複雑な構造をしているので、人呼んで「忍者寺」というわけだ。


一見、普通の寺にしか見えないが…。

「通称 忍者寺」!
本堂入り口は、この地方ならではの雪囲い。

寺は木造4階、7層にわたる構造だ。しかし外から見ても、2階建てにしか見えない。当時、3階以上の建物を建てるのは幕府に禁止されていたので、ひそやかにこのような構造にしたのだという。

とにかく2階建てにしか見えないのに、中の部屋数は23、階段は29個というから、その複雑さはいかばかりだろうか。さっそく潜入を試みたい。


精一杯遠くからの写真。よくわかりにくくて、どうもすいません。

本堂に入るとまず「?」と思うのが、この賽銭箱。地表すれすれまで、埋め込んである。こんな賽銭箱、よく考えると見たことないです。


手を添えるのが、案内していただいた岩田さん。

畳と同じ高さの賽銭箱とは、珍しい。

「緊急時には床から取り外して、畳をかぶせて落とし穴にしてたんです。」

取り外すと穴の深さは2〜3mもあるという。ふだんはそれでは危ないので、賽銭箱として使っているそうだ。うーん、ハナっから忍者寺の雰囲気満点である。

もちろん由緒あるお寺、本堂も立派である。その本堂を見晴らす場所に、不思議な小部屋が。


こちらは本堂。仏様を正面から撮影はできないので、斜めからおじゃまします。

中2階のようなところに謎の小部屋(本堂は右後方にあります)。

何か仕掛けが・・・?と思ってしまうが、これもまた珍しい「隠し礼拝殿」だ。

この寺には前田家の殿様が祈願しに来るわけだが、その参拝には公式なものと非公式なもの、2通りある。公式は年2〜3回、月日も決まっているので当然、寺に事前通知があり、一般人は入れない。

いっぽう非公式参拝とは、城内で悲しい事や不吉な事が起こった際に、逐次お忍びで来る。よって寺への事前通知がない。

しかしそのタイミングで一般人は当然普通に参拝している。殿様が一般人と混じるわけにはいかないが、かといって一般人を追い出すのは宗教上好ましくない。

よってその日だけ、殿は場所を変えて、天井一段低くなっている例の中2階の部屋に参り、障子をちらと開けた隙間から仏様を拝んだのだという。こうすることにより、殿が民衆と顔を合わせずに済んだ、というわけだ。

すぐ近くで高貴な方が拝んでいるのを知らずに無心に拝んでいた民衆…想像すると、こっちまでハラハラと気が気でない。私もなってみたい(民衆のほうに)。


この階段が、先ほどの中2階へ続く。当時、この階段は緊急時には吊り上げて隠せたそうだ。
襖の一部がスノコ張りで、こちらからは中が見えないが中からはこちらを見られる。家来が有事に備え潜んでいたという。「マジックミラー」だな。

 

渡辺篤史の心境に

ここまでで、すでにいくつかの驚きポイントがあった。どれも十分面白いのだが、特に感動した仕掛けは2つある。そのうちの1つがこの「隠し階段」だ。


戸を開けると中は普通の物置…と見せかけて!
床板をめくっていくと…

階段が現れた!ここから寺の外に逃げられるという。

本堂での参拝中に事が起こった際の、緊急の逃げ道だ。ここから寺の外、四方八方に逃げられる。

「普通の隠しアイテムじゃないか」とお思いかもしれない。上の3点の写真ではサラッと説明してしまったからね。しかし問題は、中から外にこのように簡単に出られるということは、外から中へも簡単に入れるということ。

ここで、例えば大きな錠前などでふさいでしまったら、もしかしたら敵に見破られるかもしれない。ならば、この床板に戸をかぶせて閉めることにより、戸と建物の重みを板にかけて鍵の役割をさせれば、容易に見破られることはないだろう。

なんてシンプル!アンド ビューティホー。単純なものは美しい。そして非常に有効ではないだろうか。こういう発想には、うなるしかない。現代にも生かせる仕組みじゃないだろうか。


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