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フェティッシュの火曜日
 
突撃!ブログの晩ごはん

二軒目は「酒とコーギーと男と女」

「あぶかも」の奥さんに紹介してもらったのは、「酒とコーギーと男と女」という、私のまったく知らないブログだった。こちらも主婦が運営しているらしい。

期待たっぷりで見てみると、料理専門のブログという訳ではないのだが、肉や揚げものが盛りだくさん。ここなら良質のカロリーがとれそうだ。


ブログより写真を一部転載。肉や揚げものがたんさん載っていて、なんだかうれしくなる。

さっそくあぶかも奥さんから一度メールをしてもらい、連絡をとって取材を了解していただいたのだが、紹介なしだったら断られていたかな、という感じのやりとりだった。

そりゃなにかの取材とはいえ、まったく知らない男に「ブログのご飯がうまそうだから俺にも食わせろ(実際のメールはもっと丁寧です)」って言われたら、普通断るよね。



私のとってのシャモジ

取材当日、今日もヨネスケにインスパイアされた格好でいくべきか迷ったのだが、前回思いっきり外したので、とりあえずシャモジだけ持って行った。髪型や服装は中途半端な感じ。

初対面の人の家でご飯を食べる際にこのシャモジは、警察手帳や議員バッヂみたいな、すべての状況を説明してくれる免罪符になってくれる気がする。これは偽造品のシャモジだけど。


「奥さん!ブログの晩御飯!カメラ入っていい?」 服装とか髪型よりも、シャモジが大事なのだと思う。

ところで、こちらの奥さんと事前にメールのやり取りをしていて、緊張がとれてきたのかだんだんとテンションが高まって、いただくメールに「♪」とか「☆彡」とかの文字がところどころ使われるようになってきた。

ワイドショーやCMでたまにみるミュージカル「アニー」に出てくる子役が大きくなったような人を勝手に想像していたのだが、実際に会ってみたら、「あぶない刑事」の頃の木の実ナナを彷彿とさせるさせるなにかを持った素敵な方だった。写真掲載NGだそうです。



秘密基地ような家で、創作居酒屋でコースを頼んでおいたようなメニューをいただく

さっそく家に入れさせていただくと、そこらじゅうに「これはなんなのか、なぜここにあるのか」と、問い詰めたくなるようなものだらけ。さらに動植物が盛りだくさん。

奥さん曰く、「子供がそのまま大人になったような人」である旦那さんの趣味が色濃く反映された家のようだ。


左から、荒俣宏の放出品だという18世紀の銅版画、旦那さん手作りのカニのはく製三点、そしてヴィレッジヴァンガードで買った置物。絶対ご主人が自分で仕留めた動物かと思った。 派手なネクタイだなと思ったら、蛇やトカゲの皮。普通の家でこういうものがあると浮くと思うが、この家だとよく馴染んでいるのがすごい。

骨や皮だけでなく、動物もたくさん。これはブログのタイトルにもあるコーギーのヤマト。今日は我々が来たので檻の中でごめんなさい。 かっこいいヨウム(オウムではないらしい)。このほか、もう一匹インコと、クサガメ、キンギョ多数などを目撃。探せばまだいたかもしれない。

この日お伺いしたのは夕方五時過ぎで、まだ夕飯には早い時間だったのだが、食卓にはすでに何品かのおいしそうな料理が並んでいた。

たぶん、あぶかもの奥さんから、私が長居しすぎて終電を逃したことを聞いての配慮なのだと思われる。


乾杯の時って、グラスとグラスをぶつけるべきかどうか迷います。 見た目からの予想よりも、さらにおいしい料理達。

並べられた料理は普通の家庭料理とはちょっと違う、人気の創作居酒屋のおすすめコース料理みたいな、ビールや焼酎が欲しくなるようなメニューが多い。

こちらのご夫婦は年に363日はお酒を飲むという二人だそうで、私も注いでいただいたビールを素直にいただく。こういう取材でお酒を薦められたら、お互い面倒くさいので、もう形式的にも断らないことにした。



ブロガーインタビュー開始


  まずお二人は普段なにをされているんですか。こういうのを初対面で聞くのも失礼な気がしますが。
奥さん

私は普通の事務職の会社員です。旦那はイラストレーターで、パソコンとか全然詳しくないので、今日なんの取材なのか、よくわかっていないと思いますよ。

  イラストレーターですか。普通のサラリーマンではないということは、一目でわかりました。
旦那さん あとは副業で遺跡発掘の仕事とかね。
  そんな楽しそうな副業があるんですか!
ヨウム ハイ。
旦那さん でもみんながイメージしているのとはだいぶ違って、ほとんど土木作業だけどね。今の現場は、江戸時代の…

現場作業員から見た遺跡発掘の話をまとめた「東京発掘物語」を出版されたそうです。イラストがたくさんで読みやすい。現在熟読中。 ご主人は熱心な三葉虫コレクターでもある。「君たちの三葉虫の概念を変えてあげよう」と見せてもらったのがこれ。初めて図鑑で海外のカブトムシをみたときのような衝撃をうけた。

私が発掘するのはミミズかアサリくらいなのだが、この話はとても興味深く、後日取材させてもらうことにした。

ブログの話を聞きに来たのだが、この家にいると、どうにも興味があっちこっちにいってしまう。


海苔巻き。子供の頃、これを母に作ってもらって遠足にいくと絶対男子にとられるので、とられる用と自分用に、二つ持っていったという逸品。「具が冷やし中華と同じだ」と、いわなくていいことをいってしまった。 人参とグレープフルーツのサラダ。食べたことのない組み合わせだったけど、相性抜群。そういえば昔のポテトサラダって缶詰のミカンが入っていた気がする。うちだけかな。


ブログの歴史と犬のご飯


  ブログは奥さんが全部更新しているのですよね。はじめたきっかけってなんですか。
奥さん

最初は友達が先にやっていて、「よくやるなー」なんて見ていたけど、ヤマト(飼い犬)を飼いだして、手作りご飯を与えるようになったので、ちょっと載せてみようかなと。それが2006年。

  料理を載せるためではなく、犬の話がきっかけなんですね。ブログはエキサイト?
奥さん

はじめるにあったって、Yahoo!とか楽天とかいろいろ試したけれど、当時一番使いやすそうだなって思ったのがエキサイトのブログだったの。

工藤さん ニフティのココログも使いやすいですよ。
  もちろんです。私はヤプログですが。
奥さん

最初はヤマトの話以外に、洋裁とか女子っぽいのも載せていたけど、よそのブログを見て、料理を載せるのもありかなと。多趣味だから、ブログのカテゴリがいっぱいになっちゃった。

  読んでいる側も、一度ファンになったら、その人の文章ならどんなジャンルでもおもしろいっていうのはあると思いますよ。そういえば、最初にこのブログを見たときに、「おいしそー」って思った写真があって、よく文章を読んでみたら、犬のご飯でびっくりしました。

ブログより転載。ブログを始めようとしたきっかけが、犬のご飯を載せるためというのがわかる気がする。やっぱりうまそう。 「こりゃいいもん食べているわ」と思わせる見事な毛並み。

旦那さん 餌をドッグフードから手作りに変えて、すぐに毛艶がはっきりとよくなったね。
ヨウム ハイ。
  そういえば昔ってドッグフードじゃなかったですね。ヤマトが食べているのは、犬用とわかっていてもおいしそう。でも作るのが大変じゃないですか。
奥さん

基本的に材料は人間と同じものだから、それほどでも。たまに犬用として安くて安全な肉を扱っている店で取り寄せたり。でも忙しいときは納豆ご飯とかもあげます。ヤマト、納豆大好きなんですよ。

  さすがヤマト。ところで愛犬家に聞くのはタブーなのかも知れませが、家の中でも犬に服を着せるのって、なんでなんですかね。寒がる犬種ではなさそうですが。
旦那さん 服を着せておくと、抜け毛が部屋の中に飛び散らないから。
  あー、なるほど。犬の服の謎が解けたのは大収穫です。

梅ごぼう。胡麻油で炒めたごぼうに梅干しなどを和えたもの。味噌味だと思って食べたのでびっくり。うれしい不意打ち。 青豆豆腐葛あんかけ。自分の家でこれがでてきたら、まよわずご飯にかける。

ご夫婦から話を聞きながら、私が参考にすべきは突撃するヨネスケでも、くいしん坊な松岡修造でもなく、実は「渡辺篤史の建もの探訪」なのかなと気がついた。まだ二回くらいしか見たことないけれど。



初対面の方を「かぁちゃん」と呼んでみる


  話をブログに戻しますが、奥さんのブログの写真はどんなカメラを使っていますか。
奥さん

あ、なんか「奥さん」って呼ばれ慣れていないから「かぁちゃん」って呼んでもらっていい?

  か、かぁちゃん。
かぁちゃん

そうそう。最初はコンデジでやっていたんだけど、やっぱりだんだんいい写真を載せたくなって、一眼レフとマクロレンズを買っちゃいました。

  ブログみたいに発表をする場があると、いいカメラが欲しくなりますよね。
かぁちゃん

料理のブログやっているひとって、写真がやっぱりきれいな人が多いじゃないですか。でもまだうまく使いこなせていないですね。少しはマシになったかなーっていう感じ。

  でも、か、かぁちゃんのブログ、その場の雰囲気が伝わってくる感じで、いい写真だと思います。

普通の台所で、普通よりだいぶおいしい料理ができあがっていく。 すすめられるままに焼酎に突入。取材メモがなかったら、まっ白いページになっていたことでしょう。

確かに「奥さん」っていう呼び方は自分でもどうかなと思っていたのだが、「かぁちゃん」ときたか。

実はメールやブログでの一人称が「かぁちゃん」だったのだが、「かぁちゃんと呼んで」といわれたとき、父親が急に再婚をして新しい母親が現れた日のような気分(そんな経験はないけど)には当然ならず、これが噂に聞く「ハンドル名で呼ぶ集まり」というやつかと、本気のオフ会っぽくて、ちょっとドキドキした。


モンゴウイカの塩ダレ和え。焼き肉屋っぽい味付けをされたイカ。うちでは基本的になんでも醤油味なので、塩ダレっていうのが新鮮。 豚足、手羽先、豚ヒレのコラーゲン寄せ。骨が抜いてあるので全部食べられるのがいい。撮影担当の編集部工藤さん曰く、「王様の食べる豚足」。


料理の殿堂入りノート


  今日の料理、食べたことのないものばかりですけど、こういうちょっと変わったレシピって、どうやって覚えたんですか。
かぁちゃん

母がよく料理をするので、自然と台所で話すことが多く、お手伝いをしながら覚えたっていう感じです。

  なんとなく絵が浮かびます。こののり巻きとか、食べる前から母親から教わったんだろうなっていう気がしました。初めてだけど懐かしい味。
かぁちゃん

ありがとう。それでも結婚するまでは旦那の方がうまかったかな。

  でた、旦那自慢。
旦那さん でももう完全に抜かれました。最近はもう、たまーにやるだけですね。
  おお、女房自慢返し。

丹波しめじのおひたし上田青首大根おろし添え。上に乗っているのがキュウリかと思った。口直しに最適。 天狗のつくね。「だいたいのレシピは食べれば想像つくけれど、これだけは母が馴染みの焼鳥屋で聞いてきた」という、ふわふわのつくね。

  でもこのレシピの幅広さは、お母さんから教わっただけじゃないですよね。
かぁちゃん

雑誌、テレビ、本とか、なんでも。最近はブログも参考にします。 あとはお店で食べておいしかったものを再現してみたり。

  料理の上手な人って、一度食べた物を自分で再現できたり、 さらに自分好みにアレンジできるのがすごいです。
かぁちゃん

次の日、すぐ作ってみるのがコツかなあ。この豚足を固めたやつとかも、居酒屋で食べておいしかったメニューをアレンジしたものですよ。


カレー焼き鳥。旦那さん発案。和風タンドリーチキンかな。工藤さんがタマネギに大喜び。出身地北海道の焼きとりは長ネギじゃなくてタマネギなのだそうです。 大和芋の磯辺揚げ海老射込み生海苔入り。もちろん揚げたて。葉っぱのお皿がまたかわいい。料理上手な家は食器もおもしろいのが揃っていますね。

  そういえば、あぶかもさんから「料理の殿堂入りノート」っていうのがあるって聞きましたよ。
かぁちゃん

あはは。20代から自分が作って食べるために、おいしかったメニューを記録してるの。ほら、書かないと忘れるから。

  手書きなんですね。ブログをやっていても、こういうのは別のものとして続けているんですか?
かぁちゃん

わたしのブログは純粋な料理レシピブログではないので、今でも気にいったレシピはこれに書いていますね。

  このノート、借りてじっくり読みたいですね。で、自分で作らずに、食べたいものをかぁちゃんにリクエストをしたい。

これがメニューになっている居酒屋があったら、絶対いきたい。 きれいな手書きの文字っていいですね。私は今、取材メモの文字が読み取れなくて困っています。


コメント欄から広がるブロガー仲間


  いつもコメント欄かにぎやかですけど、ああいうブログ仲間みたいのはどうやって広がっていくものなんですか。
かぁちゃん

仲のいい人のブログに、おもしろいコメントが載っていると、その人のブログを見に行きますね。ブログを見ておもしろければコメントを残したりして。

  コメントだけでも、けっこうその人の特徴、人柄がでますからね。実際に会ったりもするんですか。
かぁちゃん

家が遠かったりしてなかなか会えないけど、プレゼントのやりとりとか交流のある人は10人くらいかな。その中で実際に会ったのは3人。居酒屋で飲んだりしてますね。

  おお、出会い系だ。

むかごの揚げ物。食事の後半にこういうのが出てくるとうれしい。いいつまみになるんだ。 最後はみんな大好き、新幹線で売っているホヤの燻製。客が予想以上に長居をしたときにでてくるものこそ、その家の懐の深さがわかる。

かぁちゃん

やっぱり趣味の似通った人と知り合いになれるのがインターネットのいいところなんじゃないかな。私のブログも酒飲みの女がいっぱい集まってきます。

  確かにインターネットがなかったら知りあわなかっただろうっていう同じ趣味の人、私のまわりにもいます。
かぁちゃん

ブログをやっている人なら、自分と合いそうだなとわかった上でアプローチできるから。

  大人になると、仕事関係以外で友達ってできにくいから、そう考えるとすごいですね。
かぁちゃん

でも、実際にあってみて、良くも悪くもイメージとちょっと違ったっていう人もいますけどね。あと男の人だと、どうしても仕事をなにやっているのかとか気にするみたいだから、女同士の方が友達になりやすいのかな。

旦那さん そう、男はダメ。すぐつまらない仕事の話をするやつが多い。
  すみません、そういえば最初に仕事をきいちゃいました。
かぁちゃん

リアルな知り合いも増えて、最近は常連さんのコメントがやっぱり多いけど、知らない人から丁寧な書き込みがあると、今でもすごいうれしいですね。

  はいはい。
ヨウム ハイ。
かぁちゃん

でも自分達でおもしろいと思って書くと、コメントが全然だったり。ツボが違うのかなー。


最後の最後にご飯もの登場かと思ったら、これは犬のご飯だった。出されてたら食べていたと思う。 「餌をあげているところ撮影してください」と勤勉なはずの工藤さんに頼んだら、面倒くさそうに椅子に座ったまま撮った。そのくらいここの料理がうまく、居心地がいいということである。

「酒とコーギーと男と女」というブログの主な登場人物である二人と一匹に会ってから、ジャンルにこだわらずに楽しんで更新している様子のブログを読み返してみた。なんだか文章と実際の人物がすごいしっくりときた。書いている本人なので当たり前なのだけど。

まだ一回しか会っていないのに、ブログに書かれた内容が、本人の声で再生されて、さらにビジュアルで浮かんでくる。ブログは書いている本人を知った方が、やっぱり全然おもしろい。


取材協力:酒とコーギーと男と女

 

割烹料理屋と無国籍居酒屋くらいに方向が違う2つのブログの晩ごはん、どっちもおいしかったです。次はシャモジを置いて伺います。

またブログの晩ごはんに突撃してみたい

人の家で食べるご飯というのは、自分の家で食べるものとも、お金を払ってお店で食べるものとも違う、独特なメニューと空気感があっておもしろい。ましてや初対面、一回の食事でちょっとした国内旅行くらいの経験値が積める気がした。あと100軒もまわれば、私もきっとサイドバックの似あう男になることだろう。

デイリーポータルZの取材は、一度やれば満足して二度とやらないものも多いのだが、この企画に関しては、またなんらかの形で続けていけたらと思う。


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