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ひらめきの月曜日
 
荒ぶる男と待つ女の火祭り、お燈祭り

荒いだけの祭りじゃない


中団のちょっと前くらい。 


門が開いた瞬間、男たちが声を張り上げながら凄いスピードで飛び出した。肉眼でも光の筋が見える。あんな速さであの石段を降りるのか。本当に信じがたく、無事ですむとは思えない。

その様子も写真に収めたかったのだが後ろに居た為、撮る事あたわず。急いで後に続こうとするもあまりの人数に道をふさがれゆっくりと進むこととなった。


スピードは無いが、異様な光景。


ゆっくりとは言え、二千人の上り子が狭い石段を一気に下る。足元が不安定な中、押され、体がぶつかり合う。もちろん手に持った松明にも気をつけなければならない。


下る時は危険だらけ。


そんな中をまだ小さい子供も下る。危険すぎると思うだろうが、子供だけは別なのだ。老人だろうが若者だろうがお燈に上れば同じ男。特別扱いはしない。いざこざがあれば喧嘩にもなる。

だけど、子供だけは別。子供が居れば「こっち子供おるぞー!」と大人が声を掛け、すっと歩きやすい道を空ける。これが暗黙の了解だ。何故そんな風になっているのか、みんな必ず守るのか。

それは、多分、自分が子供だったときにそうしてもらったから。はっきり言ってこの辺の男はガラも悪いし言葉も汚い。だけど恩は返すし筋は通す。だからこそ、お燈祭りが男の祭りなんだろう。


何とか無事下りれました。

あの壁のような石段もどうにか下りきった。初参加のお燈祭り、大変な事もあったけれど、凄い祭りだ。楽しかった。と、思ったが祭りはまだ終わっていなかった。

 

人の想いが祭りの醍醐味


ここにいる人達は二時間は待っている。


境内を出ると、道を埋め尽くすほどの観客が待っていた。驚くことにその観客の道は数百メートルも続いており、殆どが女性。

観客の中を分け入るように歩いていく。お疲れ様。頑張ったね。と、ねぎらってくれる。上り子達は誇らしげに応える。凄く嬉しいが気になるのは観客の表情が少し曇っている事。

不思議に思ったが、すぐに気付いた。この人達は観客じゃない。旦那や恋人、息子、あるいは友人を「待つ」人だ。


僕はここが祭りのクライマックスだと感じた。


上り子が来るたびに誰かが喜びの声をあげる。声しか聞こえなくてもその言葉が本当に心の底からのものだと分かるくらいに感情のこもった声が何度も聞こえる。

丁度、目の前の女性が心待ちにしていた男性を見つける所を見ることが出来た。

不安げな表情で目を皿のようにして上り子が出てくる辺りを見つめる女性。両手は胸の辺りでこぶしはギュッと握られている。その視線が不意に一点に集中したかと思うと強張っていた表情がクシャっと崩れ、腕の力が抜けて、頭を下げた。

「あぁよかった、帰ってきた…」

そうつぶやいた後に上げた顔は驚くくらいにキラキラしていて、

満面の笑顔で男性までの距離、十数メートルを照らしていた。

真っ暗なところでも、ずっと待つ人の道は続く。


驚いた。想いで女性がこんなに輝くなんて。知らなかった。待つという行為がこんなに愛に溢れた行動だったなんて。

これまでも書いたがお燈祭りは危険な祭りだ。喧嘩、石段等。それらから守ろうとしても女人禁制、ついていくことすら叶わない。出来るのはただ、待つことだけ。無事を祈って待つことだけ。

待つという行為は人が来るまで無為に時間を過ごすのではなく、相手を想い、その時間を捧げるものだと教えられた。女人禁制ではあるがこの女性達も参加者だ。待っている女性の所に帰って初めてお燈祭りが終わるんだ。と感じられた。 

神社から離れて帰る最中、一組の家族の会話が聞こえてきた。5歳くらいの子供が言う。「僕も今度は山に上る!!」それを聞いて母が返す。「よーし、分かった、上って来い!ママ心配でしゃあないけど」 元気に言っているんだけど少し無理している様に僕には聞こえた。

あー、確かに酔っ払いや暴れるやつらも多いけれど、僕も小さい時から上っときゃあ良かったと思ったよ。

ホントに喧嘩多くて機動隊が出るレベルだけどな。


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