デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


ひらめきの月曜日
 
荒ぶる男と待つ女の火祭り、お燈祭り

祭り始まる


妙心寺


最後に山の麓の小さな寺に上り子達がこぞって並びお参りする。 これで準備は終り、やっと祭りの始まりだ。


ごっちゃごちゃ。


神倉神社の前には見送りに来た女性であふれかえっている。 ここから先は女人禁制、男だけが入ることを許された所である。 僕に見送りは無いが単身山へ向かう。


暗くてこうなる。


やっと辿り着いた神倉山。だがここからが本番だ。上り子達は 我先にと鳥居をくぐり、石段を踏みしめ山を登る。僕もそれに続き 鳥居をくぐって驚いた。


暗くてちゃんと写真撮れなかったので昼に撮ってきた。


見たことのない急な石段がそこにある。石段というよりまるで 石垣。立っているだけで転げ落ちそうで本当に怖い。これを 越えなければ祭りに参加出来ない、山からの試練。


振り返ると石段の先が全然見えない。


今までかなりの距離を歩いてきた後でこの石段。酒を飲んでいる人もいるし子供もいる。体力的にかなりきつい。弱気になりそうなところで誰からともなく声を出し始めた。

「わっしょいわっしょい」

それに応えるようにみんな声を張り上げる。

「わっしょいわっしょい」

正直、階段を登るのに何故わっしょいなのか分からないが僕も声を出す。声を出した方が疲れるが、諦めようという気が起きない。一人ではなくみんなで登る。

声を出すことが人を励まし、結果自分の背中を押す。

 

まずは寒さに耐える


やっと目的地の神倉山山頂へ。


みんなで山を登り切り、ついに山頂に辿り着いた。息も絶え絶え 鳥居をくぐり本殿へ。ここまではカメラマンや消防の方もいた がここからは本当に上り子だけが入ることの出来る、聖域だ。


所狭しと上り子が。


小さな体育館くらいの境内はすでに2500人ほどの上り子で埋め尽く されている。早く山を下りたいと意気込む者は前へ陣取り、子連れは 安全な所へ誘導される。僕は中央へ位置取った。

後は御神火が来るまで思い思いの事をしながら待つ。奇しくも 当日はこの地方では年に一回降るか降らないかの雪が降った。 今年一番の冷え込みだった。


白装束は薄いから本当に寒い。


寒いからみんなで歌おうとお燈祭りの歌を歌うおじさん、わっしょいわっしょいとかけ声を掛ける若者。そのどれもが寒さに身を削られすぐに止む。暗闇を静寂が包もうとしたその時ワッと歓声が上がった。

 

次は熱と煙に耐える

御神火か!!いや、喧嘩のようだ。真っ暗な中白い衣装が押し合う影が見え、たいまつを叩き付ける音が聞こえる。門の辺りには血気盛んな者が集まり喧嘩が起きる。喧嘩祭りとの別名すらある。

周りはもっとやれと煽ったり、お燈祭りは神聖なもんや、喧嘩すんなら余所でやれと言うがあまりの人数で身動き取れず止めるに止められない。喧嘩が続く中、一際大きな歓声が起こった。


一瞬時が止まる。


真っ暗な境内に明かりが灯った。辺り一面照らすような御神火が。 ウォー!!誰もが言葉にならない声を発している。 真っ暗闇の極寒の中現れた炎。頭ではなく体が光に、熱に、炎に反応する。 



炎が動き出すと上り子でぎっちり詰まっていた場所が割れ、喧嘩していた者達すらも道を開ける。上り子全員のかけ声が地鳴りのように響く中、御神火は闇へと消え、一旦中腹の神社に奉納される。

御神火が見えなくなるとみんな一斉に松明を地面に叩き付け、ガンガンと音が響き渡る。炎にあてられて興奮したのかと思いきや、先を割って、火がつきやすくしているらしい。


一心不乱に炎に向かう。


するとすぐに御神火が帰って来た。即座に炎が回される。誰もが 脇目もふらず炎に向かい火を灯す。一本松明に火が点くと、 辺りの温度がジワッと上がる。火が行き渡ったら暑いほど。


炎が空の色も変える。


火が点いた松明は頭の上に掲げられる。さっきまでとは打って 変わり、寒いどころか暑くてしょうがない。そして目が開けられず 呼吸が出来ないほどに煙で燻される。

熱と煙の中、ひたすら耐える。それだけではなく松明から落ちた 火の粉や炭も降りかかる。衣装が燃えていても気付かないことが 殆どで、人が燃えていたら払い落とす。自分が燃えていたら 払ってもらう。助け合わなければ待つことすら出来ない。


火の粉や燃え尽きた炭が降りかかる。

そんな事はお構いなしと、門の辺りの若者が早く開けろと叫んでいるが、不思議なことにそれ以外の千数百人は音も立てずにじっとしている。聞こえるのはバチバチと松明が燃える音だけ。

奇妙な静けさが辺りを包み、体力的な限界を迎えようとしたそのとき、閉じられていた門が開いた。 


< もどる ▽この記事のトップへ つぎへ >
 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲トップに戻る バックナンバーいちらんへ
個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.