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映画「シャイニング」が好きだ。初めて見てから今まで、1ヶ月に2、3回のペースで見ている。のべ回数にすると200回以上。それだけ見ても全然飽きない。夜中に酒を飲みながら暗い部屋でシャイニングを見る。誰にも邪魔されたくない至福のひと時である。

そんな「シャイニング」の舞台はコロラド州の山奥、冬期だけ閉鎖されるホテルであるが、その舞台設定が素晴らしい。普段は沢山の人たちで賑わうホテルから誰もいなくなって、周りは深い雪に囲まれて、通信手段は無線のみ。さういうものに私は惹かれる。そして、ふと思った。

日本にも冬期閉鎖されるようなホテルはあるのだろうか?

ネットで検索をかけてみると、そういうホテルがいくつか出て来た。その中で最も「シャイニング」的なロケーションだったのが、富山県は立山にある「ホテル立山」である。このページを見てもらいたい。「ようこそホテル立山へ」。標高2450m、日本一高い場所にあるリゾートホテルで、冬期は雪が深く閉鎖される。「シャイニング」の舞台、オーバールック・ホテルそのものではないか! ちなみに「シャイニング」の撮影に使われた(外観のみ)ホテル「ティンバーライン・ロッジ」はこんな感じだ。ホテルの背後に雪山がそびえ立つ感じや、建物の雰囲気、どれを取ってもホテル立山は「シャイニング」の舞台と似ている。

是非ここに泊ってみたい。しかも、今年の営業が終了する最終日に。

と、思いついたのが9月頃だった。

ホテル立山の今年の営業は11月30日まで。11月29日の夜が最後の宿泊可能日である。早く予約をしないと、シャイニング・ファンで満室になってしまう。焦って電話をかけたら余裕で取れてしまった。

(text by 住 正徳







富山ルートで立山へ

映画「シャイニング」の前半に、「CLOSING DAY」という章がある。ホテルが閉鎖される日のエピソードである。閉鎖期間の管理を請け負ったジャック一家が支配人にホテル内部を案内され、「午後にはここがホテルかと疑うほど閑散とする」と言われる。あの感じがたまらないのだ。そして11月29日が、ホテル立山のCLOSING DAYである。いつもより厚着をして家を出た。

東京からホテル立山までのルートには、長野県側が入るルートと富山県側から入るルートがある。特に理由はないが、僕は富山ルートで入ることにした。新幹線で越後湯沢まで行き、ほくほく線で魚津へ。魚津から富山地方鉄道に乗り換えて立山で降り、立山からは立山黒部アルペンルートでホテルのある室堂駅を目指す。

東京を出発してから約3時間後、僕は新魚津の駅で大きな不安に駆られていた。


新魚津で不安になった

駅員さんに立山までの行き方を確認したところ、「これから立山に?」と不思議そうな顔で聞かれた。11月30日で立山黒部アルペンルートが閉鎖されるため、その前日に立山に入るような人は珍しいのかもしれない。

駅員さんはどこかに電話をかけ始めた。


親切な駅員さん

どうやら立山黒部アルペンルートの運行状況を問い合わせてくれているらしい。メモを取りながら頷いている。

「どうでした?」

と、電話を切った駅員さんに聞くと、これから来る電車で立山に向かえばギリギリ間に合うとのこと。立山発のケーブルカーは15時50分が最終で、その最終に乗ろうとしているのは僕1人だけだと言っている。

「本当に、今から行くのか?」

駅員さんに念を押されて、更に不安になった。ホテルの従業員もほとんど下山してるだろうし、お客もいないのでは、と心配してくれている。

客が僕1人だったらどうしよう?

今回の旅の目的は、「シャイニング」的なロケーションを楽しむことにある。肝試し的な旅ではない。

出来ることならこの駅員さんも一緒に連れて行きたい。
本気でそう思った。


富山地方鉄道で立山へ ワンマン運転

富山地方鉄道からの車窓 突然観覧車が見えた

もちろん、駅員さんと一緒に立山に向かうことは出来ないので、1人で向かった。この日は重苦しい曇天で、車窓を流れる景色を見ているとどんどん淋しくなってくる。


寺田という風情のある駅で乗り換え 車内に自動販売機があった

途中、岩峅寺駅で8分間停車 電車はどんどん山の中へ

岩峅寺駅で停車中、トイレに行った。駅員さんにトイレの場所を聞くと丁寧に教えてくれて「終わるまで待ってますから、ゆっくりどうぞ」と言ってくれた。新魚津といい岩峅寺といい、駅員さんが本当に親切である。


立山駅に到着

15時40分、ようやく立山駅に到着した。ちょうど下山して来たひとたちとすれ違ったのだが、みんなスキーの恰好をしている。僕みたいにデジカメを持ってウロウロしているような人は1人もいない。

そうか、みんなスキーを滑りに来るのか。

「シャイニング」っぽい、なんて理由でホテル立山に泊る人なんていないのだ。新魚津の駅員さんが不思議そうに僕を見ていた理由がやっと分かった。


熊目撃情報 遭難対策のポスター




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