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ひらめきの月曜日
 
英文法参考書さんの謎


幸せじゃなかった先週

彼は先週、幸せではありませんでした

この文章は、be動詞の過去形の否定文を勉強する項で現れた。なるほど、過去形でそのうえ否定しなければならないという事情があってのこの文なのだ。


ああ……先週……

彼に何があったのかというと、それはつまり、be動詞の過去形の否定文をやれと命じられたということか。

だったら他に何かもっと文があるだろうと思うのだが、自分で作文してみてもだいたい同じようになってしまうのだった。例えば、

彼は昨日みかんを食べませんでした

とか。


昨日みかん、食べなかったなあ…

いやいや、なかなかそこまで昨日のみかんに未練がある人もいないだろう、もっと普通に、

彼は昨日電話をしませんでした

くらいでいいはずだ。


ああ……、電話、しなかったなあ……

かなり普通の文になったとは思ったのだが、安藤さんにその様子を再現してもらったら、ちょっと普通の日常にはないような寂しげな状況になってしまった。

これが文法解説の英文のマジックか。

続いて未来形

さらに参考書をめくっていこう。未来形の項では、起床時間を噂されているというこんな文があった。

彼女は明日5時に起きるつもりです


「彼女、明日5時起きるつもりらしいですよ」「ほほう」

起床時間というだいぶプライベートなことが筒抜けになっている。そもそも、噂をしている人々はなんで彼女の起床時間に興味があるのか。

さらに文を読み込むと、噂されているのは「5時に起きる」こと、ではなく「5時におきるつもり」だという彼女の心づもりを噂しているのだ。

そんなに人の生活に食い込んでこなくても。そう思ってしまう。

形容詞、副詞、受動態などなど

慣れてきたのでここらでまとめて見ていってみよう。

キャプションのカッコの中に、この文で文法の何を勉強するつもりなのかを書いた。


あなたのカバンの中にはリンゴが何個ありますか?
(慣用句演習)
私はあなたにとってよいものを何も持っていません
(形容詞)

彼は決して車を運転しません
(副詞)
彼は泳げませんよね
(付加疑問)

この洋服は古いですか?
(代名詞)
はい、古いです
(肯定/否定)

徐々に見えてきた英文法の世界の人の性格

念のためにいうと、もちろん参考書にはちゃんと日常で使えそうな文もたくさん載っていた(「テレビを見てもいいですか?」、「夜に外出してはいけません」etc…、書き出してしまうとどこか変な感じもしてくるのが不思議だ)。

改めて参考書を見て、私が学生だった頃の参考書の方がもっとずっとアクロバティックだったのではと思ったのも事実だ。

今回取り上げた文は、参考書から私がわざとへんなものを選んだというのは確か。

でも、それをふまえた上でいうと、英文和訳の世界の人はちょっとだけいじわるな面があるように見える。だって、「この洋服は古いですか」ってわざわざ聞くってなかなかないぞ。「彼は泳げませんよね」って、念押ししなくても。

撮影に協力してもらった安藤さんや工藤さんも、普段ないような状況の連続に、どういう表情をしていいか大変にまよっていた。

例えば、以下の2文。かなり表現が難しい。


あなたは赤い屋根の家に住んでいますか?
(関係代名詞)
彼のペットは赤い目を持つウサギです
(関係代名詞)

どういうシチュエーションで繰り出されるタイプの文なんだろう。

もし赤い屋根の家に住んでいたとしたら、安藤さん、工藤さんに何するつもりなのか。そして、「赤い屋根の家に住んでいますか?」と聞かれてなぜ工藤さんは照れて頭をかいているのか。

さらに工藤さんは「彼のペットは赤い目を持つウサギです」と紹介され、どうしていいか分からなくなって驚きの表情になっている。

かと思うと、唐突にこうだ。


日本でいちばん深い湖はなんですか?
(比較級)

いや、そんなこといきなり聞かれても。

「新解さんの謎」みたくなってきた

なんだかやっているうちに、「新解さんの謎」みたいなことになってきてしまった。

「新明解国語辞典」の例文のおもしろおかしさをまとめて有名な、赤瀬川原平の「新解さんの謎」。

英語の参考書にも、そういう人格があると思うと納得がいくふしがある。「英文法参考書さん」だ。「新解さんの謎」に対してかなり大それたことを言っている感もあるけど、思い切って記事タイトルもパロディーにしてしまったよ。

まだまだ聞きたいなあ英文法参考書さんのおしゃべり。英文法参考書さん風にいうと、「彼女は私の話を聞きたいと思っている」くらいだろうか。


おもしろ恐ろしいぜ、英語の参考書

久しぶりに英語の参考書を見た(冒頭で解説のとおり、そもそも私は参考書を持ってなかった気もするが)。

正直、文法は分からなすぎて頭の中で脳が細かく震えた(こう、脳が頭の骨にぶつかって跳ね返ってぶるぶるしているイメージ)。

英文法ってこんなえらいことになってたっけか。私が取った100点中6点という点数が意外に健闘してるのではとも思えてきたくらいだ。

英文法は難しいけど、和訳の文はおもしろい。もっといろんな参考書を読んでみたくなったし、それこそ新解さんみたいに独特な和訳が載った参考書のブランドがあるかもしれない。

中学高校当時、このおもしろさに気づいていればもう少し勉強したろうか。

これは家です

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