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フェティッシュの火曜日
 
コーヒーを飲むこと以外は、許されない喫茶店

飲むのがむずかしいコーヒー

続いて、マスターが出してくれたのは、「雫」という北山珈琲店のオリジナルコーヒー。濃いめに抽出されたアイスコーヒーの上に生クリームが混ざらないようにのっている。


「雫」のお替わり用のハーフサイズ。一杯目はこの倍のサイズで1000円

この「雫」、口の中でコーヒーと生クリームが混ざり合う感覚が信じられないほどうまい。今でも、ひょっとしたら夢だったんじゃないかと思うくらいだ。

ただし、これ、上の唇で下層のコーヒーを吸い出すようにして飲む必要があるので、少し飲むのがむずかしい。視界の端で、工藤さんが飲むのに失敗しているのが引っかかる。これはこれで工藤さんにとっては悪夢だろう。


吸い出すのに失敗して、生クリームでヒゲがベチャベチャになっていた。僕が工藤さんの撮影係をやれば良かった、と深く後悔した瞬間

若い頃は今ほど真面目にやっていなかった、というマスターの想像図(マスターは右)。60年代を想定

---どうしてこんなにコーヒーにこだわった店にしているんですか?

「学校を卒業してコーヒ屋で働いていたんですが…若い頃はそれほどでもなかったんですよ。でも、30年くらい前に急に思ったんですね。『自分の生活は、全部コーヒーのお陰で成り立っているんだ!』って。そこからですね、コーヒーに気持を移入するようになったのは」

「人間って、理由もなくそんなことを思ったりすることって、ありますよねー」とマスター。

「だから、この店ではお客さんよりも、コーヒーが一番偉いということにしたいんです。」
お店でコーヒーを飲む意外のことを禁じているのも、コーヒーを最優先にしたいからだという。
「こんなジジイが自分で作ったルールを守り通しているのも、滑稽かもしれませんけれどね」


あまりにも同業者が見物に来るので、やむなくこんな貼紙をしているそうだ。「昔はもっとオープンな楽しい店だったのに…」とマスターはさみしそうだった

正直に言おう、当初僕は「へんくつなガンコマスター」を想定して取材を申し込んだのだ。でも話を聴かせてもらったら、全然そんな人ではなかった。

コーヒーのうまさもさることながら、僕よりも何歳も年上のマスターが、コーヒーに対して真摯な気持を持ち続けているということに、素直に感動してしまう。コーヒーを飲むことを通じて、そのままマスターのピュアな気持をいただいているみたいだった…おっと、今夜の僕は少しカフェインが効きすぎているのかもしれない。

この後、今日焙煎した豆をおみやげにいただいた。「2週間くらい経ったら飲んでみて下さい。熟成がわかるとおもいますよ」とのことだ。

貰った時は単純に「やったー!自宅でもあの味が!」と思ったのだが、やってみると全然うまくいかない。そりゃそうだ。僕は今までコーヒーを豆から入れたことがないのだ。正直熟成もなにもよくわからなかった。もったいない。お手本の味を焼き付けるために、あと何度か行かないとなー、などと思ったのだった。

本当に「珈琲が主役の店」でした


取材協力
北山珈琲店
東京都台東区下谷1-5-1

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